【174冊目】村松岐夫編「テキストブック地方自治」
- 作者: 村松岐夫
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2006/06
- メディア: 単行本
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「分権改革」以後の地方自治についての標準的な教科書である。
「地方自治法」の教科書も多くはないが、「地方自治」についてのものはさらに少なく、しかも地方分権改革がここ数年で一気に進んだため、使えるものを探すだけでも一苦労である。その中で、本書は地方自治の制度と実態をバランスよく取り上げた、比較的信頼に足る教科書であると言ってよいと思われる。
前半が総論、後半が各論となっており、総論部分では地方自治制度の歴史、各国の地方自治制度との比較、さらには現在のシステムの説明がそれぞれコンパクトに取り上げられている。後半の各論部分ではNPMの導入、NPOとの連携、合併や広域行政、都市計画、教育、福祉と、多くの地方自治体が抱えるトピックスについてそれぞれ1章を割き、歴史的経緯も含めてかなり丁寧にその現状や問題点を説明している。
また、教科書とはいっても無味乾燥な記述に終わらせず、著者の考えや問題意識がところどころでかなりはっきりと出されている。特に、これは編者でもある村松氏の考えでもあるようだが、分権改革以前の国と地方との関係を必ずしも一方的な管理と抑圧の関係と捉えず、それなりの評価を下しているところが多い。たしかに、戦後の高度成長期に国がナショナルミニマムを明確に設定し、全国一律で行政水準の底上げを図ってきたという面は否定できないだろう。
また、村松氏は国と地方との関係を「行政ルート」「政治ルート」に分け、行政ルートでは機関委任事務を中心に国から地方への一方的な支配構造があったが、政治ルートではむしろ地元選出の議員等を通じた地方から国への働きかけが強力に行われており、それが法律の制定などに結びついてきたという。いわば国から地方へという行政ルートは、地方から国へという政治ルートと相互補完的関係にあり、国と地方は密接な相互依存関係にあったということになる。
したがって、地方分権改革は、こうした垂直的関係が、自治体間競争に代表される水平的関係(本書でいう「水平的政治競争モデル」)に大きく舵をきったところに意義があるということになる。確かに、政治的アクターの存在は、特に行政サイドに着目して地方分権を論じる時には忘れられがちなところかもしれないが、実際、地方は国に対する強力な圧力団体であり、政治レベルで相当な影響力を行使してきたのである。