自治体職員の読書ノート

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【1405冊目】西原理恵子『生きる悪知恵』

生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント (文春新書 868)

生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント (文春新書 868)

悩み相談を持ちかけた時、一番腹が立つのが、やたらに正論をぶつヤツだ。

「こうあるべき」で問題が解決すれば苦労はしない。理想論なんて、今困っている人には100%役に立たない。だから本書のサブタイトル「正しくないけど役に立つ60のヒント」というのはある意味当たり前であって、より適切には「正しくないから役に立つ」のだと思う。

だからといって、著者サイバラは別に、ワザと悪ぶってみたり、ひねくれたことを言っているわけじゃない。役に立つことを言おうとすれば、結果的に「正しくない」ことになってしまうのだ。

その引き出しの多さはものすごい。やはりダテに苦労はしていないな、と思わされるものがある。売れない頃は皿洗いやホステスのバイトで生活費を稼ぎ、エロ本のカット描きからデビューし、結婚した相手はアル中で、しかも早世したため母子家庭で二人の子を育てるというプロフィールだけでも相当だが、実際にこの人のマンガ(特に『ぼくんち』『上京ものがたり』『毎日かあさん』あたり)を読んでみるとさらに納得できるだろう(『ぼくんち』は著者自身の話そのまんまではないが、こういう内容は生半可な苦労では描けない)。しかもその苦労を自分で笑い飛ばし、自虐ネタにしてマンガを描いているのだから、その突き抜け方には頭が下がる。

本書はマンガではないが、サイバラのエッセンスがみっちりと詰め込まれた一冊だ。回答は一見平凡に見えるが、なかなかこういう「指南」を的確に返せる人はいない。ウソだと思ったら、質問を読んで自分で回答を作り、それからサイバラの回答を読んでごらんなさい。とにかくそのセンスには脱帽だ。

笑ったのは「使えない部下にイライラします」という質問に「それは「ネジ」だと思ってください」というくだり。うなったのは、夫の携帯メールを盗み読みして浮気に気付いた質問者に「携帯を勝手に見たアンタが悪い」。えっ、と思われた方は、実際に回答内容を見てみましょう。「隠れて悪いことをしてても何をしてても、それを含めての「好き」でしょう」という言葉の奥深さ、わかりますか。

ぶっとんだのは「妻子ある人との関係をやめるべきか続けるべきか」という質問への「とりあえずバックアップの用意を」という回答。意味、わかります? 自分も二股、三股かけておけ、ということですね。「恋愛はフェアじゃなきゃいけません」って……。すごすぎ。

具体的で「使える」ものも多い。個人的になるほどと思ったのは、カネを貸してくれ、という相手への対処法として「10分の1の金額をあげる」というもの。高須クリニックの院長から聞いた話らしいが、これはすばらしい。「空気が読めないと言われる」という悩みへの「空気が読めなくても許される人間になれ」というのも、まったくそのとおり。同感です。

マジメな話から下ネタ系まで、良い意味での「大人の知恵」の実践例。「正しいこと」への免疫注射としても、よ〜く効く一冊だ。ただし免疫力が弱いとダメージを受けます。ご注意を。

ぼくんち (ビッグコミックス) 上京ものがたり  毎日かあさん カニ母編