自治体職員の読書ノート

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【1373冊目】神田昌典『全脳思考』

全脳思考

全脳思考

著者の神田氏は「カリスマ経営コンサルタント」「日本一のマーケッター」などと呼ばれている、ビジネス書業界では有名な方。そういえば以前、勝間和代さんが大絶賛していたような気がする。

ビジネス書関係ということで、これまでなんとなく距離感を感じていたのだが、気になって読んでみたら、思いのほか面白くタメになる内容だった。ビジネスパーソン向けと言いつつ、自治体業務に必要な視点もたっぷり盛り込まれている。だいたい、本書でグーグルやキッザニアパタゴニアiPhoneと並んで「最近飛躍している事業」に挙げられているのは「東京マラソン」なのである。

ここに挙げた事業の特徴として著者が指摘するのは「目立った営業活動をほとんど行っていないこと」。逆に言えば、営業しなければ認知してもらえないようなビジネスは、その時点で「アウト」であるらしい。

むしろ世の中は「指名検索」の時代。人は「マラソン」がやりたくて東京マラソンにたどりつくのではなく、最初から「東京マラソン」がやりたくてピンポイントで検索をかけるのだ。だから事業を成功に導くには、指名検索の対象となるくらいの知名度が必要なのだ。

そんな現代を著者は「知識社会」であり「自己投影型消費の時代」と呼ぶ。そこで必要なのは、「ネーミング」であり、その背後に広がる「物語」なのだ。消費者は「自分らしさ」を消費においても求め、「本当の自分になるために」商品を購入する、らしい。

いやはや、なんだかヘンな世の中になってしまったものだという気もするが、確かにiPhoneパタゴニア無印良品などのヒットは、値段やデザインもさることながら、その企業イメージや製品イメージにまつわる「物語」がウケていると考えられなくもない。もちろん、本書はその是非を問うわけではなく、今度は売り手の側に立って、そうした物語性をどのように生み出していくか、というメソッドを展開していく。「全脳思考」とは、そのための強力なツールのことなのだ。

ここで「全脳」とは、これまでのマーケティングやコンサルティングの主力であったロジック(左脳)に加えて、直感や感情、イメージなどといった右脳の働きを動員するといった意味合いであるらしい。そのための方法は、論理をひとつひとつ積み上げていく従来のやり方とは真逆のものだ。「全脳思考」では、まずゴールとして具体的な誰かが「120%HAPPY」になっているところを想像し、そこから逆算して具体的な事業展開に結び付けていくのである。

この「ゴールからの発想」「イメージによる発想」こそが本書のキモなのだ。本書の後半、全脳思考モデルの一環として示されている「CPS」という方法など、実に典型的。これはなかなか面白いメソッドで、そのキモは「質問を知る前に、答えとなるイメージを思い浮かべる」というものだ。えっ、そんなバカな、と思われるかもしれないが、試しにやってみるとよい。例えば、こんな感じだ。

「あなたはとても気持ちの良い、きれいな光景の中にいる。突然天から風呂敷包みがおりてくる。それをほどいて開けると、そこにあったものは何だろうか?」

まずその「答え」を直観的に思い浮かべ、メモっておく。ポイントは「文字」ではなく「絵」でメモること。

次に、質問を選ぶ。本書では7通りの質問からひとつを選ぶようになっているが、ここでは「あなたが今読むべき本は何か?」(←白抜き反転)にしておく。その質問に対する答えは、さっき風呂敷包みから出てきたモノが象徴する何かである。あまり頭で考えず、むしろ思いついたことをどんどん書き出していくといいらしい。そのうち突然、思いもかけない答えが文字通り「降ってくる」。

もちろん今書いたのはかなりテキトーな案内なので、くわしくは本書や類書にあたっていただきたいのだが、これだけで本書の方法論がいかにこれまでの「発想法」や「ロジカルシンキング」と異質であるかわかるだろう。

もちろん、ロジカルな思考法がダメということではない。論理による「詰め」はきっちりとやらなければならない。

望ましいのは、論理とイメージが相互補完的に組み合わさって、お互いにプラスの影響を与えあうことだろう。しかし、これまでの発想法や思考法はいかにも左脳に偏り過ぎていた。本書は「物語」と「イメージ」によってそのバランスを右脳側に引き戻し、文字通り脳全体で考えるための方法を提示しているのである。

こういう発想って、自治体現場でも本書の内容は十分に使えるように思われる。むしろわれわれこそ、住民の「120%HAPPY」を想像するところから、事業の組み立てをスタートしていくべきなのだろう。