自治体職員の読書ノート

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【943冊目】清水義晴『変革は、弱いところ、小さいところ、遠いところから』

変革は、弱いところ、小さいところ、遠いところから

変革は、弱いところ、小さいところ、遠いところから

規模を求めず、利益を求めず、効率を求めない。「構造改革」とは真逆の、マイノリティの小さな改革の積み重ねこそが、本当の変革につながるのかもしれない。

本書に登場する「変革」の事例は、たいへん幅広い。まちづくり地域再生のほかにも、「仕事を楽しくする」「自分の生活を変える」といった視点のものまで含まれている。共通するのは、タイトルにもあるとおり「弱く、小さく、遠い」ところからの、つまり社会の末端、世界のはじっこで、どこにでもいるような個人が始めた変革ばかりであるという点である。

冒頭に登場するのは、あの「べてるの家」。決して排除せず、徹底して話し合いを重ね、その「プロセス」が結果としての成功や効率性を超える意味をもつ。彼らの存在を冒頭で紹介したことが、ある意味で本書の性格をバチッと決めている。

まちづくりや変革というと、「成功事例」を列挙する本が多い。しかし、そもそも「成功」とは何か、という問題意識が、本書の底流には流れているような気がする。経済的な利益や規模を得られることが、必ずしも本当の「成功」ではない。むしろそれによって一人一人の生活が変わり、仕事が楽しくなり、顔が活き活きと輝いてくることが大切なのだ。

そうした意味で印象的だったのが、営林局を若くして退職し、北海道新冠町で農業を始めた松本氏。松本氏は、農業に生産性をそれほど求めない。百頭以上の牛が飼える広々とした土地に、わずか15頭ほどを放し飼いにしているだけだ。やりたいことは山登り。そのために必要な最低限の収入が得られれば良い。もっと儲けることは簡単にできるのだが、あえてやらないのだ。収入を得ることは人生の「目標」ではなく「手段」であることを、松本氏は熟知しているように思える。

それだけなら単なる脱サラ農家なのだが、松本氏がすごいのはこの「山登りをやりたいために農業をやる」という姿勢を貫き、他の酪農家にまで影響を与えていったことである。もともと、乳牛の世話はフルタイムの仕事で、休みもおいそれと取れないものだった。しかし、松本氏は周囲の酪農家夫婦を片方ずつ山に誘ったり、以前あった酪農ヘルパー制度を復活させるなどして、誰もが時には休みをとって山登りや温泉旅行を楽しめるように、人々の意識や制度そのものを変えていったのだ。

本書にはこんな、変革というにはあまりにも小さく、ちょっとした事例が満載である。しかし、この「一人ひとりがちょっとした変革を起こす」ことこそ、今の時代には必要なのではないかと、最近の政治をめぐる報道を見ていると思わざるを得ない。政権交代したならしばらくはじっくり任せてみればよいものを、すぐに「成果」を求め、気に入らないと「退陣」を求めるマスコミの尻馬に乗る。近所のスーパーを選ぶような感覚で政党を選ぶな、と言いたい。文句をつけて挙げ足を取ることばかりは一人前のマスコミも問題だが、それに踊らされて内閣支持率を乱高下させる国民もどうかしている。お客様民主主義、消費者民主主義ここに極まれり、である。

そんな中だからこそ余計に、本書で取り上げられている人々の姿は輝いて見える。それぞれの現場に身を置き、できるところからちょっとずつ、自ら変えていく。そんな小さな変革の積み重ねが、「バタフライ・エフェクト」じゃないが、いつか大きなうねりとなってこの国を変えていくと思いたい。変革の主体となるのは政治家や官僚じゃなく、まず私自身であり、あなた自身。そのことを確信させてくれる一冊である。