自治体職員の読書ノート

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【869冊目】新谷尚紀・岩本通弥編『都市の暮らしの民俗学1 都市とふるさと』

都市の暮らしの民俗学〈1〉都市とふるさと

都市の暮らしの民俗学〈1〉都市とふるさと

3巻シリーズの第1巻。都市と地方の関係に焦点をあてた論考8篇を収める。

都市部自治体の職員として、都市の住民の生活や習俗についてはずっと関心があったのだが、なかなか入口が見つからなかった。このシリーズが入口になってくれるかどうか、まだわからないが……。本書は『都市とふるさと』として、都市と農村の関係をメインに扱っており、第2巻が『都市の光と闇』、第3巻が『都市の生活リズム』となっているので、そちらは都市そのものに深く切り込む内容となっているらしいので、期待したい。

第1巻が『都市とふるさと』となっているのは、ひとつは都市だけを単体として捉えるのではなく、農村との対比で捉えようということ、もうひとつは、現在の都市の成り立ちには、農村からの人間の移動を考慮することが欠かせない、ということがあるためであると思われる。実際、日本という国家が近代化、工業化するにつれて、農村から都市へ流れ込んできた人々の数は膨大だ。そして、最初に移動してきた人々は「ふるさと」を農村に置いてきたが、世代が交代するにつれて、生まれも育ちも都市、という住民がどんどん増えていき、「ふるさと」はどんどん観念上の存在となっていった。具体的な「ふるさと」を持たない人々のいわば「ふるさとの代理」として、ノスタルジーに訴えかける「ふるさと観光」が盛んになり、「日本人の原郷」という名の「ふるさとのイミテーション」が観光地化した。一方、子どもを都市に送り出した世代はどんどん高齢化し、超高齢化の末に「限界集落」化し、あるいは集落自体が消滅する例も多かった。

都市とふるさとの関係は、案外複雑でやっかいだ。地方と都市、として単純に切り分けることも難しいし、お互いが相手のことを理想化し、憧れの対象にしてきたこともある。本書はそうした都市とふるさとの問題を多面的に考察するもので、それぞれの論考のテーマがなかなかユニーク。メディアと地方、いわゆる「生活改善運動」の役割、県人会や同郷団体の実態、都市内部の「田園化」、ふるさと観光の現状と問題、そして都市民の信仰を地方が吸収するという「巡礼ツアー」の実態と、なかなか他では(専門の研究誌を除き)お目にかかれないものばかり。個人的には、四国の「お遍路」の現状を裏側から照らしだした「都市民の信心」が面白かった。単に巡礼の観光化を嘆くのではなく、その過程で参加者に信仰の萌芽のようなものが芽生えていくという発見に、宗教と観光と産業の複雑で奥深い関係が感じられた。

現在、都市部への人口集中、地方の衰退というこれまでの図式を超えて、都市と地方との新しい相互関係を考えていく時期にきているように思う。その時には、マクロな議論も大切だが、同時に本書のような、細部から全体を捉える視点も忘れてはならないように思う。