自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1028冊目】中村良夫『都市をつくる風景』

都市をつくる風景

都市をつくる風景

出色の都市−風景論。これまで読んだ同種の本の中ではピカイチ。

都市政策まちづくりに関する本の中には、西欧型の都市をモデルとして、そうした「あるべき姿」に届かない日本の都市の姿を嘆く、というものが多かった。本書も当然、西欧の都市事情や市民共同体のメンタリティについては、かなり丁寧に触れている。ただ、大半の類書が「だから西欧のような都市は日本ではつくれない」とあきらめるか、「日本も西欧型のまちづくりを目指すべきだ」という西欧モデル追随論になるか、だいたいそのどちらかで終わっているのに対して、本書が面白いのはその先だ。著者は西欧の紹介にとどまらず、日本人の風景観や美的感覚のルーツを掘り下げた上で、日本流の都市観を提示してみせるのだ。

キーワードは「山水都市」。自然と隔絶し、自然と距離を置く西欧の都市に対して、日本の都市は、外はボーダレスに山や川とつながり、内部もまた豊かな緑や疎水を育んできた。本書のコトバを借りて言うなら、「天の気」「地相」を町の基層とし、その上に展開する「社交」が生活文化を生み出す、という、西欧とはまったく異なる思想のもとで都市をつくってきたのだ。本書はそれを単に理論としてだけではなく、世界各地、さらには日本の地方の豊富な実例を示しながら提示していく。

イザベラ・バードからアレックス・カーまでの「日本見巧者」の視線、志賀重昴『日本風景論』から後藤新平柳宗悦南方熊楠などの文化論・文明論、英国の田園都市思想を移入した旧内務省の日本版田園都市思想など、導入されている視点はたいへん幅広い。本書はそれらを自在に往還しつつ、山水都市というひとつの理想形を編み上げていく。そこにあるのは、自然と切り離されて人工物に満ちた西欧型の都市ではなく、自然と一体化しつつ、人間の生活の営みを土台にした日本式「山水都市」の姿である。どこぞの本が示すようなヨーロッパのサルマネ都市など、どんなにキレイでもごめんこうむりたいが(だったらディズニーランドにでも行っていればよい)、本書が描くような、生活と文化と遊びが渾然一体となった山水都市だったら、住んでみたい。遊んでみたい。創ってみたい。