自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【238冊目】W・P・キンセラ「ダンス・ミー・アウトサイド」

ダンス・ミー・アウトサイド (集英社文庫)

ダンス・ミー・アウトサイド (集英社文庫)

カナダ・インディアンの居留地を舞台にした連作短編集。インディアンの若者サイラスの語りというスタイルで、インディアン居留地の日々と事件をおもしろおかしく綴っている。

彼らインディアンが置かれている状況は決して楽ではない。特に根強くあからさまな差別はひどいものである。警察も司法もインディアンを目の敵にしており、サイラスらはいわれのないひどい取り扱いを次々に受ける。しかし彼らインディアンの若者も黙ってはいない。持ち前の行動力と彼ら独特の論理で、彼らは白人にさまざまないたずらをしかけ、あるいは報復し、痛快きわまりない活躍をみせる。本書に収められている短編のいくつかは、一見するとそういった、インディアンが白人に「目にものをみせてやる」痛快なお話のようにみえる。

しかしその奥にあるのは、そうした馬鹿馬鹿しいまでの痛快さの奥にあるある種のやるせなさであり、底深い無力感であるように思える。そこからくる透明な哀しさが、この小説に独特の味わいを与えている。17の短編が収められているが、どれをとっても、インディアンという、これまで比較的「物言わぬ民」であった人々の「内側」から、いわば彼ら自身の言葉で語られる、笑いと哀しみが渾然一体となった秀作ばかり。ちなみに、何かにこのノリが似ているな、と感じながら読んでいたのだが、日本で在日コリアンの視点で書かれたアクティブな物語(例えば金城一紀「GO」とか、映画の「パッチギ!」とか)がもつ独特のトーンに近い。イデオロギッシュな文脈を離れて、ふつうの(ややエネルギーが余り気味な)若者の行動を書くことで、かえって彼ら(インディアンや在日コリアン)の哀感に迫っているところなど、読めば読むほどそっくりである。

キンセラの小説を読んだのは初めてだったが、これはお勧めである。ものすごく面白い。ちなみにキンセラは、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の原作「シューレス・ジョー」の作者であり、野球関係の小説でも有名らしい。