自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【139冊目】神野直彦「地域再生の経済学」

地域再生の経済学―豊かさを問い直す (中公新書)

地域再生の経済学―豊かさを問い直す (中公新書)

疲弊した地域の再生方法を、経済や財政の視点から考えた本。

一般に、地域再生には二つの方法があると考えられていると著者は言う。ひとつはアメリカがとっている、市場社会を大幅に導入することで民間の活力を引き出す方法。日本の地方制度改革も基本的にはこの路線が強い。もう一方はヨーロッパ型の、市場社会の外部にある非市場社会を充実させる方法。この非市場社会とは単純化して言えば、従来共同体社会が担ってきた機能部分にあたる。ここでは、政府の機能は共同体が果たしてきた機能を、成員の負担する租税(いわゆる「協力課税」)をもとに代替的に果たすというものであるとされ、特に地域に密着した地方政府(つまり自治体)が主体的に担う分野であると著者は指摘する。

言うまでもなく本書で展開されているのは、後者の非市場社会型・共同体社会型の地方再生であり、そのための具体的な税制改革の素案が提示されている。その骨子は、実は現在地方への税源委譲手段として行われている、いわゆる住民税のフラット化とそれに伴う所得税減税の税制改革と外形的にはほとんど同じである(著者はあくまで住民税ではなく一律の地方所得税として構想しているが)。いわば本書は、今般の税制改革の基本的な考え方のフレームを示すものとなっている。

いわば本書は、ヨーロッパ諸国をモデルケースに、財政という切り口から地方再生を説いたものといえる。その基本哲学は安易な民営化論を一蹴する密度の濃さと理論性を備えており、学ぶべき点は非常に多いといえる。特に市場社会におけるセーフティネット論はまったくそのとおりであり、非常に参考になった。