自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【140冊目】ティク・ナット・ハン「あなたに平和が訪れる禅的生活のすすめ」

あなたに平和が訪れる禅的生活のすすめ―心が安らかになる「気づき」の呼吸法・歩行法・瞑想法

あなたに平和が訪れる禅的生活のすすめ―心が安らかになる「気づき」の呼吸法・歩行法・瞑想法

著者のティク・ナット・ハンは、ベトナムで二度にわたる戦争を体験する中で、「行動する仏教」(エンゲージド・ブディズム)を唱え、戦争のさなかに身を置いて平和活動を続けてきた。本書はその過酷な体験も交えつつ、平和をもたらすにはどうすればよいのかを、具体的な実践法によって語ったものである。

本書の軸となっている考え方は、まず誰もが自分を慈しみ、自分自身の心の中が平和でなければならないというものだ。ひとりひとりの心が平和であってはじめて、家族や社会、ひいては国家や世界に平和をもたらすことができるからである。ではわれわれが「平和である」ためにはどうすればよいか。著者が説くのは、「気づき」(mindfullness)の呼吸法、歩行法、瞑想法の実践である。ここでいう「気づき」は本書のキーワードのひとつであり、「今」に対する徹底的な意識の傾注を意味する。過去や未来にとらわれず、吸う息や吐く息、腹部の動き、現在の身体や心の状況、あるいはそれにあわせて踏み出されるゆったりとした一歩一歩にのみ意識をフォーカスすること。その具体的な方法が、本書では繰り返し語られている。

そして、一人一人が「気づき」を得ることができ、自分が祖先からつながり、家族とつながり、周囲の自然とつながった存在(inter-being)であることを自覚できれば、今度はそれを周囲に伝え、周囲の家族や友人、共同体に平和をもたらすことが可能となるという。そのようにして、いわば池に投じた小石が周囲に波紋を広げるように、みんなが周囲に平和の状態を広げていくことが、著者の説く世界の平和の実現につながる。したがって、何より重要なのは自分自身の心を平和に保つことなのだ。そのための実践を(読むだけで終わりとせず)たゆまず続けることが、自分も周りも平和でハッピーになれる、おそらくは唯一の道なのである。本書は、形骸化した日本の現代仏教とは大きく異なる、仏陀がまさにそうしてきた実践的でシンプルな仏教の思想と方法の書であるといえる。