自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【48冊目】河合輝欣監修 NTTデータ情報化法制度研究会「電子行政の法務知識」

電子行政の法務知識―IT時代必携

電子行政の法務知識―IT時代必携

電子申請、電子調達等、インターネットをはじめとする電子的インフラを活用した行政手続については、どの自治体でも関心が高いところであるが、本書で述べられているような「法律」との関係づけについては、一般にあまり議論が詰められているところとはいえないように思われる。

また、現行の法律の多くは紙による文書概念や手続概念を前提としていることから、電子行政を導入するにあたっては、電子行政ベースでこれらの法概念そのものの解釈を引きなおす必要があるはずだが、そういった試みも十分とはいいがたい。本書は、そのような現状の中で、実際に自治体業務の電子化に多く携わってきた、いわば行政の電子化を請け負う「プロ」の視点から、関連する問題点を整理した本である。

まず気づくのは、電子行政というテーマではあるが、本書で問題とされる論点の多くは詐欺、錯誤、無権代理、債権の準占有者への弁済、不法行為等、民法の基礎概念に関わるものだということである。これは、行政分野に比べて大幅に進行している電子取引における知見を行政面に応用しているためであるが、反面、行政手続自体においても民法の果たしている役割が大きいことの裏返しともいえよう。

また、行政手続法と関連する点としては「受付」の概念に関連する問題が大きく関わってくるところであるが、そもそも「受理」と「受付」の概念自体が実務上はきっちりと整理されているとはいいがたいのであって、そのことが電子行政の導入にあたって顕在化しているとの感もある。そのほかにもいろいろな問題点が法制度上は未解決のままであり、解釈によらざるを得ない点が極めて多いというのが率直な印象である。

なお、本書は平成13年の刊行であるため、電子行政における最重要トピックである「住基ネット」「個人情報保護法」がまだ成立していない時点での議論となっている。また、技術そのものも長足の進歩を遂げており、いろんな意味でやや遅れた議論となっている点はいなめない。しかしながら、電子行政における基本的な問題点とその解決策をバランスよく提案しており、実用性の高い本であることには変わりないといえるだろう。