自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【47冊目】東野圭吾「嘘を、もうひとつだけ」

嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)

嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)

東野圭吾といえば、今もっとも売れているミステリー作家のひとりである。本書は、彼が書いた5つの短編が収められている。

どの短編にも共通している点は、加賀という刑事が謎解き役として登場することと、いわゆる犯人役の視点で物語が進行するという点だ(最後の短編はちょっと違うが)。もっとも、有名な刑事コロンボシリーズのような、犯行過程を最初に描き出してしまう「倒叙法」とは違う。どの短編でも、視点は犯人におかれながら、どのように犯罪が成立したのかは最後まで明らかにされない。この点でいえば、むしろクリスティの「アクロイド」型に近いのかもしれない。

作者は犯人役の視点に立ち、しかも読者に「嘘」をつかないまま、真相は最後に加賀刑事の口から指摘されるまで明らかにされない。実に巧みなテクニックであり、読者は、2,3作目あたりでパターンがある程度読めてきてからは、「この人がどうやって犯行をやりおおせたのか」を犯人の視点から追うという楽しみでどんどん読めてしまう。そして、作者は決して読者の期待を裏切らない。

人間ドラマとして見た場合にはやや後味が悪い作品もあるが、ミステリーとして割り切って愉しむには十分である。