自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【本以外】映画『黙ってピアノを弾いてくれ』


『黙ってピアノを弾いてくれ』予告編

 

渋谷シネクイントで鑑賞。第1水曜日はサービスデーだそうで、1100円。ラッキー。

それにしても、いや~、ものすごい映画だった。というか、チリー・ゴンザレス、凄すぎ。ピアニストとか作曲家とか、いろいろ肩書がついているようだが、これは違う。この人は「チリー・ゴンザレス」が肩書なのだ。

パンク、ラップ、そして急激な「原点回帰」。とはいえ、その姿勢は常に「自分だけのパフォーマンスをやる」ことで一貫している。ちなみにチリ―によれば、パフォーマーは客を楽しませるエンターテイナーだが、アーティストは「自己満足」(字幕ではこう書いてあったが、チリーははっきり「マスターベーション」と言っていた)とのことである。

叫ぶ。跳ねる。ピアノの上に寝そべる。客を舞台に引っ張り上げると思えば、自分が客の「上に」飛び込む。だが、一方で彼は今になって「7~8歳の子どもが弾く」教則本で、ピアノの基礎を練習しているのだという。チリーの兄は、技術に秀でていたらしい。だがチリーは、兄の演奏には深さがないという。自分は「軽くて深い」音楽をやろうとしているのだと。

実際、ムチャクチャやっているようでいて、チリーのステージを見ていると、心がわしづかみにされそうな自分がいる。そのビート、そのシャウト、そのパフォーマンス。破天荒のようでいて、実はおそろしい完成度。観客を巻き込み、虜にする何かが、間違いなくそこにはある。

一方で、観ていて強く感じたのが、「音楽の天才」と自らを評するチリーの孤独だった。自分だけの音楽、自分だけのステージをここまでやれるのはスゴイと思うが、チリーはおそらく、それしかできないのではないかと思えたのだ。自分を極限まで突き詰め、音楽をとことんまで深め、それを瞬間に切り出す。そんなことができるのは、チリー・ゴンザレスしかいない。だからこそ彼が立っているのは、とんでもなく孤独な場所なのではないだろうか。