【2036冊目】F・P・バイステック『ケースワークの原則』
- 作者: フェリックス・P.バイステック,Felix P. Biestek,尾崎新,原田和幸,福田俊子
- 出版社/メーカー: 誠信書房
- 発売日: 2006/03
- メディア: 単行本
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人事異動でケースワーク業務に就くことになったので、ケースワーカーの基本書を読んでみた。
原著は1957年刊行だが、本書に登場する7つの原則は、いまだにケースワーカーの指針となり続けている。いささか規範的すぎるかもしれないが、それでもやはり、ケースワークの基本を求めるには、本書に立ち戻るのが早道であるように思われる。私同様、4月からケースワーカーになられた方は全国に多々おられると思うが、ぜひ一読を勧めたい。
7原則を紹介する前に、そもそもの前提を確認しておく。それは、ケースワークを円滑に行うには、ケースワーカーとクライエントの良好な「援助関係」が必要である、ということである。ここでいう援助関係とは、広い意味では人間関係の一種であるが、ケースワーカーの専門的な技術に裏打ちされた独特の関係である。援助関係を形成することはケースワークの目的ではなく、前提である。著者はこんなふうに書いている。
「ケースワーク・サービスを提供するあらゆる場面において、良好な援助関係は、完璧な援助を目指すために必要であるばかりでなく、援助というサービスの本質を維持するためにも不可欠なのである」
では、「バイステックの7原則」である。
第1は「クライエントを個人として捉える」。逆に言えば、クライエントを既存の枠組みや偏見にはめ込んだり、その他大勢のひとりとして捉えてはならない。どんな人間でも、一人の個人としての尊厳をもっている。当たり前のことではあるが、そんな「当たり前」を忘れてしまいやすいのがケースワークなのである。
第2に「クライエントの感情表現を大切にする」。感情を表現できるようクライエントをサポートし、表出された感情を尊重する。著者は「感情は事実である」という。感情の解放は、適切に行われればクライエント自身が問題を解決することになる可能性もある。ただし、例外もある。感情をいたずらに解放することには危険も伴う。特に過去の体験(例えば幼少期に受けた親からの暴力)に基づく感情を不用意に表出させてはならない。
第3に「援助者は自分の感情を自覚して吟味する」。ケースワーカーはクライエントの感情への感受性をもち、その裏側にあるものを深く理解できるだけの人間に対する洞察を有し、クライエントに適切に反応する必要がある。人間行動、心理学や精神医学の知識が重要となるが、加えてワーカー自身の内面の反応にも自覚的でなければならない。なぜならワーカーは、クライエントの感情に自らの感情をもって「参加」することになるからである。
第4は「受けとめる」。クライエントが否定的感情を表しても、そのような感情を抱いており、表出したということ自体を受け止める必要がある。それによって、クライエント自身も、もてあましていた自らの感情を受け止めることができる可能性がある。ただし、それは感情を「許容する」ことではない。また、過剰にクライエントと自身を同一視したり、自分の感情をクライエントに転嫁したりしてはならない。
第5は「クライエントを一方的に非難しない」。ケースワーカーは裁判官ではない。もちろん、ワーカーにも価値判断の基準はあるし、なければならない。だが、それをもってクライエントを裁いてはならない。また、安易に「わかったふり」をしてはならない。
第6に「クライエントの自己決定を促して尊重する」。当たり前のことだが、決定するのはクライエント。支援するのがケースワーカー。そこをはき違えると、次のような「不適切なケースワーカーの行動」が出てくる。すなわち、(1)問題を解決する主な責任をワーカーがとり、クライエントに従属的役割をとらせること(2)クライエントが求めるサービスを無視して、クライエントの社会的、情緒的生活の取るに足りない部分まで詮索すること(3)直接、間接にクライエントを操作・操縦すること(4)コントロールするような仕方で説得すること
第7は「秘密を保持して信頼感を醸成する」。これもまた当たり前のことだが、実は非常に悩ましい状況が生まれやすいのがこの秘密保持をめぐる問題である。プライバシーをみだりに明かさないのは当然だが、では、秘密を守ることで第三者に害をもたらす場合や、犯罪につながるような情報はどうか。ケースワーカーがもっとも「板挟み」になりやすいのが、実はこの手の問題なのである。