【2026冊目】プーシキン『スペードのクイーン/ベールギン物語』
「スペードのクイーン」は、これまで「スペードの女王」というタイトルで訳されていたもの。でも「スペード」だったら「クイーン」が正解だ。なんで今まで気づかなかったんだろう。
それはともかく、これがなかなか面白い。必ず勝つという3枚のカードの秘密。それを知る伯爵夫人を問い詰めたあげく、ゲルマンは夫人を殺してしまう。ところがその葬儀の晩、ゲルマンのもとを訪れたのは、死んだはずの伯爵夫人だった。「お前の願いをかなえてやれと命じられたんだ」と言う夫人は、ゲルマンにカードの秘密を告げる……。
ホラーなテイスト、夫人の養女リーザとのロマンス、「カードの必勝法」というギャンブルめいた側面もあって(ひょっとすると世界初の「ギャンブル小説」かもしれない)、とてもじゃないけど180年前の作品とは思えないほど洗練されている。それでいて、トルストイやドストエフスキー、あるいはチェーホフやツルゲーネフにつながる、ロシア的な雰囲気も満載で、特にチェーホフの小咄に似たセンスが感じられた。もっとも、読んですぐに思い出したのは芥川龍之介の「魔術」という作品。だが芥川の作品が良くも悪くも理に落ちているのに対して、プーシキンの場合は、ラストもあくまで謎めいていて奇妙な印象を残す。
「ベールギン物語」のほうは、短編集、というか逸話集のような作品。どれも独特の味わいがあって捨てがたいが、中でも「駅長」の悲哀はなんともいえず、忘れられない。シンプルでけれんのないものが多いが、それだけにかえって印象深い。