【1892冊目】山下洋輔『ドファララ門』
名著『ドバラダ門』で父方のルーツをたどった著者が、今度は母方のルーツをさぐる……とはいっても、そこは奇才ヤマシタヨースケ、ふつうの自伝や評伝になるはずがない。本書は、時代も空間も縦横無尽、家族の歴史からジャズのルーツまでを一挙総覧、変幻自在のメタ・エッセイだ。
特にクラシックからジャズまで、幅広く底深い著者自身の音楽的ルーツが、全体を貫く縦糸になっている。母方のみごとな「音楽一家」ぶりには、なるほど、ここから山下洋輔は生まれたのか、と深く納得。特に母の菊代の影響は大きかったようだ。
山下洋輔のライブには、一度だけ行ったことがある。有名な「肘打ち」も凄かったが、なにより基本的な技術の高さと、それを徹底的に崩し、遊ぶ自在さのバランスに恐れ入った。ここまで弾けるからこそここまで遊べる、ということなのか。
最近、ジャズが気になっている。ベニー・グッドマン、カウント・ベイシー、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン等々、ジャズ・クラシカルというべきプレイヤーが面白くてしょうがない。山下洋輔は、音楽はもとより、文章がジャズになっている。それが楽しく、読んでいてクセになる。