【1608冊目】西加奈子『さくら』

- 作者: 西加奈子
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/12/04
- メディア: 文庫
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やらないほうが良いと思いつつ、ついつい読み終わってからamazonでレビューチェックしてしまった。案の定、読んでみて激しく後悔。あああ、見なけりゃよかった、酷評の嵐。
いやいや、酷評ばっかりじゃなくって褒めてるのもあるんだけど、どうしてもけなしているほうが目についてしまうのはなぜだろう。まあそれはともかく、私自身の読後感としては、う〜ん、たしかにベタだし陳腐だけど、こういうのもあっていいんじゃないの、とは思えた。少なくとも「セカチュウ」みたいな狙ったあざとさは感じなかった。むしろベタでも陳腐でも、こういうのを書きたい! っていう著者の気持ちが、この小説には入っている。そこが読んでいて気持ちいい。
前半、これでもかと見せつけられた幸せな家族が、後半、兄の事故と自殺がきっかけで音を立てて崩れていく。その無残さが、シンプルな組み立てだけに、直球でこちらの胸を打ってくる。「読み巧者」ほどこういう小説には反発を感じてけなしたくなるんだろうが、でもあまり本を読まない大多数の人にとっては、こういうベタでシンプルな小説のほうがいいんじゃないだろうか。いやいや、バカにしているわけじゃない。印象的なシーンやセリフの創り方もうまいし、なんといっても「僕」の朴訥な語りが効いている。
まあ、後半は読んでいて痛々しいし、正直あまりうまくいっていないと思える部分もあった。むしろ読んでいてうまいなと思ったのは、3人きょうだいの子供の頃を描いた前半だ。兄と道に迷いながら行った遠くの公園、そこで出会った不思議なおじいさん、鉄パイプを振り回して子供たちを追いかけてくる男「フェラーリ」、障害をもっているとも思えるその男をからかう子供たちの残酷さ。それに子供の目から見た、ふんわりと温かく楽しい家族と世界の光景。
著者自身の体験がどこまでここに反映されているかはわからないが、一つ一つの情景が、なんとも丁寧に、いとおしんで描かれているのを感じた。決して「うまい」文章というわけではないが、読みやすいし、時々出てくる比喩もユニークでおもしろい。それになんといっても、読者の心のツボを押す独特のセンスを、この著者は最初からもっているように思えた。まあ、そのあたりが人によっては「あざとい」「狙っている」と見えてしまうのかもしれない。
実は著者の名前はいろんなところでよく見るのだが、小説を読むのは今回が初めて。私はけっこう好感をもった。2作目がこの水準なら、評判になるのも分かる気がする。