【1517冊目】宮本節子『ソーシャルワーカーという仕事』
- 作者: 宮本節子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/02
- メディア: 新書
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ちくまプリマー新書ということで、若者をメインターゲットに、ソーシャルワーカーという仕事を紹介する一冊。著者自身ベテランのソーシャルワーカーらしく、豊富な実体験に基づいて、この仕事のリアルな実情を知ることができる。
著者によると、ソーシャルワーカーの仕事には2つの方向性があるという。一つは「その人を支え育てる」こと、もう一つは「その人の暮らす環境を耕す」こと(p.10)。
この「耕す」という表現が素晴らしい。もちろん他人がそこに手を突っ込む前に、その人自身が「どうにかする」ため努力することも重要だ。個人の努力をサポートすることには大きな意義がある。しかし、それが難しい場合のほうが現実には多い。だからこそ人は「福祉」に来るのだ。
そうした困難を抱えた人のために必要となるのが、いろんな社会的制度、団体、あるいは個人のネットワークなど、周囲の環境そのものに働きかけ、その人を既に存在するさまざまなネットワークにつなげていくこと。この「つなげる」ということがポイントであるらしい。
もちろんこれ、書くのはカンタンでも、実践するのは大変だ。人が相手の仕事である以上、起きていることは千差万別。パターンもマニュアルもあってないようなものである。社会や制度の矛盾も、こうした現場の最前線で一番はっきり現われてくる。
例えば、「相手の意向を尊重しなさい」というのは「正論」だ。しかし本書では、骨折して動けなくなったにも関わらず入院を拒否する老人を、布団ごと抱え上げて車に乗せ、病院に連れていった事例が紹介されている。これをどう考えるか。
また、「法律を守りなさい」というのも「正しい」ご意見である。しかし、深刻な児童虐待のケースについて、今と違って法整備が不十分な中、法律的な順序を踏み外してでもまず子どもを施設に避難させ、後から虐待者である親の同意を取った。これはどうだろうか。
どちらのケースでも、「正解」などどこにも存在しない。「法律が悪い」「制度が悪い」と言って終わりにするのは評論家。現場というのは、それでもとにかくどうにかしなければならない、というところから始まるのだ。「ソーシャルワーカーとしてこのような場合は如何にあるべきかなどという一般原則はありません。自分が持っている権限を行使して、できることをできる限りする以外にないと思います。矛盾に満ちた状況の中で自分にできることの幅は、その人のもつソーシャルワーカーとしての能力と共に倫理観や感性の幅に規定されるでしょう」(p.145〜146)という著者の言葉に、すべてが詰まっている。
リプスキーは「ストリート・レベルの職員」に着目したが、ソーシャルワーカーはまさに「ストリート・レベル職員」ど真ん中。本書は豊富な実例を挙げるのみならず、その背後にある方法論や考え方を明快にまとめているスグレモノ。若者のみならず、広く「福祉」関係者にオススメしたい一冊だ。