自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1244・1245冊目】『百年文庫13 響』『百年文庫14 本』

(013)響 (百年文庫)

(013)響 (百年文庫)

(014)本 (百年文庫)

(014)本 (百年文庫)

以前読んだ「音」は日本の音だったが、こちらは西洋のシンフォニックな「響」。音楽とはいかに人を狂わせ、癒すものであることか。

○リヒャルト・ヴァーグナーベートーヴェンまいり」
ヴァーグナーなんて小説家は知らない……と思ったら、なんとかの楽劇王ヴァーグナーの小説だった。ベートーヴェンとの対話はヴァーグナー自身の音楽観が見えて面白いが、個人的にはイギリス人の造形が巧い。重厚な歌劇のイメージとは違い、オペレッタのようなコミカルな味わい。

○E・T・A・ホフマン「クレスペル顧問官」
ゴシック・ロマンスの巨匠ホフマンのミドルネーム「アマデウス」は、敬愛するモーツァルトからとったという。そして、両者は確かに似ている……作品に「魔性」が秘められているというその一点で。歌えば死に近づくアントニエがなんとも切ない一篇。

○ダウスン「エゴイストの回想」
幼き日の恩人ニネットを捨て、音楽の道を選んだ「私」。エゴイストという自称に、どこか自暴自棄な自己卑下を感じる。なにしろ「私」は捨てたはずのニネットを忘れられず、窓の下で曲を奏でる貧しいオルガン弾きに彼女を思い出すくらいなのだ。

音楽とともに、本もまた人を狂わせる。ユーモラスでやがて哀しき愛書家の世界。
島木健作「煙」
その道の手だれが集まる古本市でのほろ苦い経験を切り取る一篇。耕吉の選択が結局どうだったのか、叔父の周造の裁定が見たかった気がする。

○ユザンヌ「シジスモンの遺産」
人より本を愛する「愛書狂」と、その愛書狂を夫にもった妻の「本への復讐」とのバトルを、絶妙のユーモアとエスプリで描く。う〜ん。この小説、好きです。

佐藤春夫「帰去来」
帰去来といえば陶淵明だが、そこに重ね合わされるのが、都会に出てきた純朴な青年と著者のちょっとコミカルなやりとり。内容よりまずは句点・読点の極端に少ない「ベタ打ち」の文章に驚く。