【1216・1217冊目】『百年文庫9 夜』『百年文庫10 季』

- 作者: カポーティ,吉行淳之介,アンダスン
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2010/10/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (2件) を見る

- 作者: 円地文子,島村利正,井上靖
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2010/10/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
「夜」は、amazonの紹介文にもあるとおり、まさに夜陰の向こうからブルースが聞こえ、煙草のけむりがただよう渋い3篇。
○トルーマン・カポーティ「夜の樹」
夜の汽車で若い女が同席した相手は、一筋縄ではいかない奇妙な男女。安物のジンの強烈な臭い、主人公の女性が吸う煙草、身を切るような車上の冬の夜風が、いっしょくたになって読み手の身体にも吹きつけてくるような、妙に切ない一篇。戯曲にしたら面白そうだ。
○吉行淳之介「曲がった背中」
行きつけの安酒場で出会った男の背中にヘミングウェイの小説を連想した「私」に、男は戦時中に体験した哀しいできごとを語る。空襲の夜の一瞬に、男女の人生が交錯する。
○シャーウッド・アンダスン「悲しいホルン吹きたち」
少年から大人になろうともがいているウィルの前に現れた老人は、冴えないコルネット吹きの父親を思わせるみじめな雰囲気をまとっていた。大人の悲哀と少年の気負いが、モザイクのように組み合わさった一篇。
「季」は、日本の四季であると同時に、人生の季節でもあるのだろうか。出会いの季、別れの季、再会の季。その妙を描く三篇が収められている。
○円地文子「白梅の女」
30年前に身を焦がすような恋をした、たか子と桂井。それぞれの人生を経て、ふたりは白梅の香る庭に囲まれて再会する。逢わなかった30年は長かろうが、その年月を経た再会が、このふたりにとっての「季」だったのだろう。
○島村利正「仙酔島」
こちらは信州の城下町をほとんど出たことのない老女ウメが、40年前に信州で行き倒れた馴染みの商人、信吉の死に際の姿を、今になって広島の福山に住む遺族に伝える。鞆の浦や仙酔島に信吉の面影を辿るウメが、そこで出会った老夫婦の殺伐とした様子に、思わず自分たち夫婦のことを思い返すシーンが印象的だった。
○井上靖「玉碗記」
古墳から出土した一組の玉碗は、古代の天皇とその妃のもの。そこに主人公は、かつて嫁ぎ先で亡くなった妹と、その後まもなく戦病死したその夫の面影を重ね合わせる。古代の長歌を効果的に挿入しながら、現代と古代のカップルを二重写しで眺めるのだが、その手法がいささか理に走りすぎているのではないか、とも感じた。