自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1009・1010冊目】松本仁一『カラシニコフ I』『カラシニコフ II』

カラシニコフ I (朝日文庫)

カラシニコフ I (朝日文庫)

カラシニコフ II (朝日文庫)

カラシニコフ II (朝日文庫)

桂読。何冊か前に読んだ多田富雄氏の著作で印象に残った「アフリカ」に焦点を当ててみたくて選んだ本と、その続編。これも前から気になっていた本で、やっと手に取れた。

この2冊の主役は、なんといっても「カラシニコフ」だ。旧ソ連が開発したこの自動小銃は、故障が少なく手入れが簡単。銃に不慣れな者でも扱いやすいことから、世界中で爆発的な「大ヒット商品」となった。旧ソ連はライセンスを共産主義諸国にばらまき、本書によれば今や世界中に存在するカラシニコフはおよそ1億丁。その中には「密造」された模造品も少なくなく、その生産と流通はほとんど野放し状態であるという。

ポイントは「誰でも使える」というところ。これがカラシニコフを「悪魔の銃」にしてしまった。国家機能が崩壊したシエラレオネソマリアなどでは、ゲリラや武装強盗が子供を誘拐して、強制的に兵士に仕立て上げる例が後を絶たない。子供は従順で命令に従わせやすいし、ひとつの価値観に染まりやすい。しかもいざとなれば「弾避け」として利用することもできるためだという。そして、そんな子供たちに渡されるのが、彼らでも簡単に使うことができるカラシニコフなのだ。なまじ「誰でも使える」がゆえに、結果としてカラシニコフは少年兵や少女兵の量産に手を貸しているというわけだ。

当然、こうした国では警察機能など無いに等しい。政府高官は大統領を筆頭に、自分の私腹を肥やすことしか頭になく、教育にも福祉にも治安にも関心がない。石油やダイヤなどを産出する豊かな土地に住んでいながら、その収益は腐敗した政府から下に降りてくることは金輪際ない。そして、住民の多くは貧困と恐怖のどん底で暮らしている。カラシニコフが流通するのもわかる気がする。ゲリラや武装強盗から身を守るには、住民自らが銃で武装するしかないからだ。著者はこうした国々を「失敗国家」と呼ぶ。アフリカにはこうした「失敗国家」がわんさとある。どれもヨーロッパの植民地支配が産み落とした負の遺産であることは、言うまでもない。

そんな中、一筋の希望として書かれているのが、ソマリアの一部が分離独立した「ソマリランド共和国」。ソマリランドは、アフリカにあって銃問題を自力で克服したほとんど唯一の国家である。議会上院の中核である「長老会議」を中心に、政府と国民が一致協力して国内の銃を回収した。今でも決して豊かな国ではないが、治安は良い。教育にも力を注ぎ、アフリカでは例外的と言えるほど平和で「まとも」な国家を実現している。ところがなんと、このソマリランドは、国際的には承認されていない。承認されているのは典型的な「失敗国家」であるソマリアなのだ。

さて、「カラシニコフI」がアフリカ編なら、「カラシニコフI I」はその他の国、主に南米やアラブ諸国を追った一冊だ。アフリカとはまた違った、しかし同じようにすさまじい状況が淡々と記述される。コカインと引き換えに銃を手に入れるコロンビア。パキスタンアフガニスタンの国境付近にある「銃密造の村」。大国に翻弄され続けるアフガニスタンイラクの悲劇……。銃が当たり前のように人々の手にある国。それはまた、治安維持という国家の最低任務が果たされていない国が、世界中に存在するという証拠である。

しかし、そもそも人々が銃で自分の身を守るのが当たり前であるなら、国家とはいったい何だろうか。著者は「I」のあとがきでこのように問いかけ、「武力と国家」というきわめて重大なテーマが、カラシニコフという銃の問題と地続きでつながっていることを示す。世界と国家の現実を知るために、目をそらしてはならない2冊。