【1008冊目】町田智弥・かたぎりもとこ『リアル公務員』
- 作者: 町田智弥,かたぎりもとこ
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2010/12/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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会社や学校、病院やNPOなど、およそ世の中にある「組織」や「団体」というモノは、たいていその内部に「理想」と「現実」の埋めがたい落差を抱えているものだ。
公務員ギョーカイもまた、例外ではない。理想は誰もが分かっていても、現実はどうしたわけか、その理想をストレートに通せないようにできあがってしまっている。法律の壁、予算の壁、部署の壁・・・・・・。その壁をしたたかにくぐり抜けていくためには、皮肉なコトに、理想を追うばかりではなく、むしろ現実の組織というものを知り尽くし、そこに深く身を沈めていなくてはならない。
本書は、まさに「リアル=現実」の公務員ギョーカイ事情を、現役公務員の方自らが書いた一冊だ。この手の本はこれまでも何冊か紹介してきたが、本書がユニークなのは、文章とマンガを絶妙に織り交ぜた結果、類書に比べて飛躍的に読みやすくなった点。特に「猫の係長」のキャラはケッサクだ。似たような人って、たいていどこの職場にも一人やふたりはいるもんだが、すばらしいのはそれを「猫」で描くセンスですよ。実際、本書の「面白さ」は、このマンガの絶妙なセンスによるところが大きい。
本書の内容については、まあ同業者の方なら先刻ご承知のコトばかりだろうから、割愛する。非・公務員の方から見れば「何甘いこと言ってんの」と一蹴されるだけなのかもしれないし、案外ご同情いただけるのかもしれない。ちなみに、私が基本的に信用していないamazonのレビューはそれなりに理解を示しているものが多い一方、コチラの書評などはけっこう厳しめ…というか、まあなんというか。いや、あるべき姿(理想)については、まったくおっしゃるとおりなんですけどね。いずれにせよ、このへんの「読み手の温度差」を読み分ける楽しさも、ギョーカイ本ならではだ。
とは言っても、だからと言って現状にどっぷり浸り、「どうせ分かってもらえないよね〜」と言っていて良いワケはない。冒頭で、どんな組織にも理想と現実のギャップはあるものだと書いたが、違いが出てくるのは、その差を埋めようと不断の努力と工夫を重ねているか、最初っからあきらめて現実の上にアグラをかいてしまうか、という点であろう。思うに本書の意義は、差を埋めるための出発点として、「現実」の位置にスタートラインを引いたことにあるのではないか。では、そこから「理想」の位置に近づくためのファースト・ステップとしては、どんな方法がありうるだろうか? ということで、思考実験。以下、本書を読んで思いついた「解決策」の一端を、思いつきのままにつらつら書いてみたい。2つ、ある。1つは、組織の姿勢もあるが個人ベースの問題。もう1つは、組織ベースの問題。
まずは、失敗すること。・・・・・・なんて書くと誤解されそうだが、失敗を恐れすぎないこと、と言えばよいだろうか。本書にも「1のリスクに100の準備」なんて書かれているが、公務員は概して失敗を怖がりすぎるし、失敗してはならないと思いすぎているような気がする。皮肉なことに、その結果、失敗への備えというリスク管理の基本がおろそかになりやすくなる(「失敗しない」のだから。むしろ失敗を想定すると問題視されたりする)。悪循環である。むしろ失敗することを前提に、現場でのリカバーを織り込んでアグレッシブに仕事をするくらいでよろしい。
もうひとつは、「ヨコの人事異動」を進めること。つまり市町村なら市町村同士で人事交流や派遣を活発化させることだ。これは民間企業ではなかなかできない(トヨタの社員がホンダに派遣されるようなものですから)公務員業界のメリットだろう。事務系なら常に全職員の2割程度、全職員が若いうちに一度は他の自治体に水平移動できるとベスト。官民交流は時々行われているが、同業のほうが説得力がある。「常識」だと思っていた役所内の慣習が実はわが社ローカルだったことに気づいたり、思いもつかない発想や仕事法が見つかったりするかもしれない。少なくとも組織の風通しが圧倒的に良くなることはウケアイだ。国からの「天下がり」を受け入れるより、よほど有意義だと思うのだが・・・・・・。