【839冊目】岡田芳朗『旧暦読本』
- 作者: 岡田芳朗
- 出版社/メーカー: 創元社
- 発売日: 2006/12
- メディア: 単行本
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暦の問題は、奥が深い。
日本が現在の太陽暦(グレゴリオ暦)を採用したのは、明治5年。それまでは、太陰暦に太陽の運行を24等分した「二十四節気」を組み合わせた太陰太陽暦(旧暦)を、途中で変遷はあったものの、基本的にはずっと使ってきた。それを急に、しかも一方的に太陽暦に変えたわけだから、相当の混乱があったことだろう。その混乱の一部は現在にも引き継がれている。さまざまな季節の行事のなかには、旧暦の月日をそのまま新暦に置き換えているものもあれば、旧暦に相当する新暦の日に変更している場合もある。季節感を表す言葉も、旧暦ベースでつくられたものがそのまま使われていることがけっこうあって、実感とはズレたまま慣習的に使われていることが多い。
たとえば「七夕」は元々旧暦7月7日(現在の7月末〜8月末頃)であり、真夏の澄んだ夜空に星がたくさん見える時期だった。しかも7日は上弦の月で、月明かりが少ない上に早めに沈んでしまう。そのため、天の川をはさんだ織女星と牽牛星もよく見えたことだろう。ところが新暦7月7日は、ご存知のとおり梅雨の真っ最中で、夜空はほとんど雨雲に隠されてしまう。短冊をつるしても雨にぬれてしまう。台無しである。
また、有名な忠臣蔵の「赤穂浪士の討ち入り」は12月14日夜。雪が積もっていたとされているが、新暦12月14日では雪はちと早い。しかし旧暦に換算すると、12月14日は1月下旬〜2月。雪が積もっていても何ら不思議ではない。さらに旧暦の14日と言えば、ほぼ満月。明るい月光が積もった雪に反射して、夜とは言え相当明るかったことだろう。新暦12月14日の討ち入りでは、仇討は成功していたかどうかあやしいものである。
まあそんな調子でさまざまなエピソードを交えつつ、旧暦の仕組みや歴史、それに必ず絡んでくる「六曜」や「九星」、「雑節」などの説明も織り込んで解説しているのが本書。著者は「暦の会」の会長さんだとかで、ほかにも暦に関する著作は多いらしいが、さすがに暦の魅力を語らせたら水際立っている。現代の日本では、旧暦で生活するのはかなり難しくなっているが、それでも時々「今日は旧暦でいうと何日かな」などとたどってみると、思わぬ発見があるかもしれないし、わずかにせよ、江戸以前の人々の生活感覚の一端を感じられるかもしれない。ちなみに今日3月10日は、旧暦でいうと1月25日。明日11日は、二十四節句をさらに細分化した七十二候では「八候(桃始めて咲く)」にあたるそうである。