【714冊目】荒俣宏『想像力の地球旅行』
- 作者: 荒俣宏
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/02
- メディア: 文庫
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先日読んだライプニッツが主として還元的な方法論の代表選手だとすれば、科学にはもうひとつ、たくさんの資料やデータを集め、その中から一定の法則を見出すという方法論がある。いわゆる帰納法であるが、それを支えるのが膨大で分野横断的な事物の集積だ。そして、その代表選手こそが博物学である。
専門化や分野の細分化が進んだ現代の科学では、こうした取り組みはなかなか難しくなってきているが、逆にそうした「タコツボ化」への反省から、博物学は最近になっていろんな方面から脚光を浴びるようになってきている。もっとも、肝心の「プロ」の研究者たちは、自身が細分化された「分野」の中からなかなか抜け出せない。そこで、本書の著者・荒俣宏のような人物が求められるのである。
もっとも、本書は荒俣宏自身の知識からなる「博物学」というよりも、博物学という分野そのものを「博物学」するものとなっている。登場するのは、著名なリンネやフンボルト、ダーウィンらはもとより、ビュフォンやキュヴィエなど、「自然」という巨大な相手の整理分類に挑んだチャレンジャーたちである。
また、整理分類しようにも、対象となる動植物などのサンプルがないと研究のしようがない。そこで登場するのが、大航海時代の英雄たち、クックやブーガンヴィル、ラ・ペルーズらの世界航海者たちである。彼らの船には博物学者や絵師などが乗り込み、世界中の動植物の標本を採取しては写生したり、ヨーロッパに持ち帰ったりした。その集積があったからこそ、博物学が花開き、現代にもつながるリンネの二名分類法やダーウィンの進化論までが生まれたのである。
また、日本における博物学(「本草学」といった)の開花も本書では扱われている。鎖国中の江戸時代にもオランダ経由でヨーロッパの博物学の成果が持ち込まれたし、国内でも独自のかたちで動植物の採取と写生、研究が行われていた。また、日本の生物相もシーボルトらによって海外に伝えられた。もっとも、国内における「本草学」の成果は封建的な江戸時代にこそ開花したが、開国後の明治政府は、むしろこれを遅れたものとして排斥してしまったという。
本書は博物学の世界を一望するには最適の一冊と思う。図版も豊富で面白く、眺めているだけでも楽しい。そう、そもそも博物学自体、探検とコレクションの楽しみの中から膨大な知の成果が実ったものなのだ。本書はそうした、学問とはまず楽しむこと、知的好奇心を抱くことなり、という基本的なことを思い出させてくれる本でもある。