【534冊目】本谷有希子「乱暴と待機」
- 作者: 本谷有希子,鶴巻和哉
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2008/02/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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人に嫌われることを極端に恐れるあまりいろいろ気をまわしすぎ、それが鬱陶しがられてかえって嫌われてしまう奈々瀬、その奈々瀬に「復讐」するため同居している「お兄ちゃん」(でも血はつながっていない)英則は、「マラソンに行く」とウソをついては屋根裏にもぐりこみ、一人になった奈々瀬を覗いている……。「復讐」でつながるふたりの奇妙に安定した関係。二段ベッドで寝る二人のシュールな生活を、とことんまで細部にこだわって描いた小説。もともと舞台で上演されたものを小説化したらしく、そういえば登場人物や場面がきっちり限定されており、いかにも舞台っぽい。
面白いのは二人がそれぞれ別の意味で自意識過剰であり、世の中から切り離され、疎外されているいわばアウトサイダーでありながら、二人だけの生活は妙にそこだけ独自の世界で完結し、お互いが妙に居心地よくなってしまっていること。「復讐」が同居の理由というのも異様だが、なぜ英則が奈々瀬に復讐しなければならないのかを、二人とも忘れてしまっているのもシュール。そんな異常といえば異常この上ない関係が、読んでいると妙にこの二人に似合いの関係に見えてくるところが面白い。
また、お互いがお互いのことをいろいろ「気づいている」にも関わらず、気づいていないふりをしているのも妙にリアリティがある。気付いていることを公式に認めてしまうと別れなければならないので、必死に「気づかれていない」ごっこをしているのだ。しかし、そこに闖入してくる番上とあずさのカップルのせいで、結局「気づかれて」しまった二人は生木を裂かれるように別れざるを得なくなり、その瀬戸際で物語はとんでもないカタストロフを迎える。そのクライマックスで奈々瀬と英則の人格がいきなりがらりと変わるところはびっくりした。でも、孤独で自意識過剰な二人だからこそ、こういう関係でなければ一緒にいられないのだろうし、こういう関係で救われる人って、実際にもたくさんいると思うのだ。