【410冊目】松下啓一「自治体政策づくりの道具箱(ヒント)」

- 作者: 松下啓一
- 出版社/メーカー: 学陽書房
- 発売日: 2002/02
- メディア: 単行本
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軽い気持ちで手に取ってみたが、これは個人的には大当たりの一冊だった。
構成は単純かつ無作為的。「手法」「アクター」「小道具」「心構え」の4章に分かれ、各章ごとに、政策づくりに関連する(と思われる)トピックがアイウエオ順に並んでいるだけである。「思われる」というのは、一見したところ政策づくりと何の関係があるのか分からないようなタイトルも混ざっている(例えば「水」「時間がない」「職員録」「スジとコンニャク」「バカップル」など)ためであるが、読めばちゃんと政策づくりに結びついてくる。
そして、本書は徹頭徹尾実用的で、地に足の着いた内容となっている。厄介な上司の裁き方や利害関係者の調整など、新しい政策が生まれる場面につきものの泥臭いシーンを決して避けて通らない。この点、実務経験ゼロの学者先生がお書きになった理念的で抽象的なばかりの「政策論」の本がおびただしく出版されているが、そうした「学術書」と本書はまったく違うのである。なお、そうした学者先生の本の中でもとりわけ理想化傾向が強いのが政策法務系のテキストであるように思われるが、本書でも「政策法務」という項がある。何が書いてあるかと言うと、こんな感じだ。
・・・・・・だからといって政策づくりにおいて政策法務が、それほど重要なのかというと、正直なところ実務の実感と乖離しているように思う。
なぜか。
まず、自治に強い人は法務に弱いからである。わが都市で自治を切りひらいた人というと何人かの顔が浮かぶが、どう贔屓目に見ても、彼らが法律に強いとは思えない。
私自身の経験でも、これまでいくつかの政策づくりを担当したなかで、法務がポイントとなった記憶があまりない。
政策づくりの結果、現状の変更がおこるが、企業も市民もこれにはやはり抵抗がある。(中略)そこを解きほぐして何とか合意を取り付けるのが政策づくりの醍醐味であるが、これができれば政策づくりはほぼ終わったようなものである。法律との整合性は残るかもしれないが、これは何とでもなる。理屈は後からいくらでもついてくるからである。
まだまだ続くが長くなったのでこのへんにしておく。どうだろうか。私は決して政策法務の意義を否定するものではないが、その議論がどうも実務と乖離しているような気がしていた。そのあたりを本書はまさにピンポイントで言い当てている。これは政策づくりというものの実務に根ざした本質論である。どのトピックもこの調子で、ユーモアとアイロニーのセンスも抜群。自治体職員にしておくにはもったいないほどの書き手である。