hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【300冊目】J.S.ミル「自由論」

自由論 (光文社古典新訳文庫)

自由論 (光文社古典新訳文庫)

気がついたら300冊目である。全然狙ったわけではなくまるっきりの偶然なんだが、年度末の節目の日に、しかも名著中の名著というべき本書でこの「キリ番」を迎えることができ、なんだかうれしくて一人ニヤニヤしながらこれを書いている。中断したり再開したりの繰り返しで落ち着かないことおびただしいこの「読書ノート」であるが、これからもご愛顧のほどよろしくお願いします。

さて、ジョン・スチュアート・ミル著「自由論」である。名前は超有名だが、案外読んだことのある人は少ないのではないか。

「自由」にもいろいろあるが、本書は今日風にいえば「表現の自由」を中心に、自由をめぐる国家と個人の関係を論じている。

古典と呼ばれる本の多くに共通するのが、内容の時代を超えた普遍性である。本書で繰り返し書かれている「自由」に対する考え方も、そのまま現代の日本に通ずると思われる。特に、誰もが自ら思うことを表現する自由を有すること、反対意見の存在によってむしろ一方の意見の正当性が担保されうること、自由な意思の表明こそ個性の発現につながり、人々がそれぞれの個性を十全に発揮することこそがその人の幸福につながるといった思想は、19世紀後半以降のヨーロッパの自由主義的な思想の源泉となり、ひいてはアメリカを経由してその系譜を継ぐ日本国憲法に活きている。憲法を多少なりとも学んだ者なら、本書の記述から憲法13条(すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。)、第21条(集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。/検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。)を思い出すはずである。

また、地方分権の重要性についても、自由の確保との関係で論じられている。ミルは当時いちはやくトクヴィルの著作に触れ、「アメリカのデモクラシー」の書評を書いていたらしいが、本書でもアメリカ草創期の自治的コミュニティについて触れられており、ひとつの理想的な地方自治の姿として描かれている。なお、ミルの地方分権に対する考え方は、国家の中に多元性、多様性を確保することで国家の専横を抑制し、個人の自由を確保する点にあると思われるが、この思想はわが国の憲法の中にも投影されていると考えてよいのではないだろうか。