自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【298冊目】 谷本寛治・唐木宏一・SIJ編著「ソーシャルアントレプレナーシップ」

ソーシャル・アントレプレナーシップ―想いが社会を変える

ソーシャル・アントレプレナーシップ―想いが社会を変える

副題は「想いが社会を変える」。まさにそのとおり、本書は、多くはちょっとしたきっかけから心の中に芽生えた「熱い想い」を「事業」という形に育て上げてきた人々の言葉で成り立っている。

前に取り上げた病時保育のパイオニア、NPO法人フローレンスの駒崎氏や、介護保険の原型となっているともいわれる24時間在宅福祉事業化したNPO法人ケアセンターやわらぎの石川氏など、実際に社会を変え、今も変えつつある人たちだけに、その言葉には何とも言えない重みがある。そして、本書で取り上げられている6人の「社会起業家」たちのたどってきた道のりは、当然それぞれに異なるのだが、その中で共通している点もいくつもある。特に、6人とも最初は個人の熱い想いや使命感から始めた事業が、一定の規模になるに従ってそれだけではまかないきれなくなり、一定の組織化、事業化をする必要に迫られるのだが、そこで安易な妥協をせず、自らの熱意や使命感を組織のミッションに的確に置き換え、いわば個人の熱意の「組織化」をうまく図ることができているところが印象的であった。

そもそも、ビジネスとしての成立と社会的ミッションの実現をふたつながらに実現しようとする社会起業家という存在には、ある意味で成り立つこと自体に一種の奇跡を感じてしまう。そのありようをみることは、アスファルトの路傍にあるわずかなむき出しの土のうえに、小さな美しい花が咲いているのを見る気分である。しかし、そんな奇跡が成り立つのも、花で言えば小さな種が発芽してわずかな地面に深く深く根を張って、多いとはいえない栄養分を必死に吸収するという懸命の努力ゆえであろう。そして、本来なら彼らを支援し、サポートすべきなのは、まずは同じようなミッションを共有しているはずの行政セクターであるはずだ。残念ながら実際には、行政は彼らの活動を阻害するがごとき振る舞いに出ることのほうが多いのであるが。まったく、情けないことである。