【297冊目】桜井章一・甲野善紀「賢い身体 バカな身体」

- 作者: 桜井章一,甲野善紀
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/02/15
- メディア: 単行本
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「麻雀打ち」と「古武術家」という、超異色の組み合わせによる現代社会論。
お二人の書いた文章は好きでよく読むのだが、いつもながらうなずかされることばかりである。私にとって、この人たちのメッセージは「お前さん、そんなんじゃダメなんだよ」というやさしい諭しの言葉に聴こえる。それがすっと心に入ってくるのは、建前やきれいごとではなく、彼らの言葉がその重い重い実体験や、まさに身体的な根拠をもっているからであるように思われる。
知識や科学ばかりを偏って発達させる中で、私を含む現代人は自然や人間とのふれあいや関わり合いをどんどん失い、便利さの中で身体の使い方も知らず、「病」の方向に向かっている。そのことに対する強い危機感と違和感が、本書には一貫して流れている。年間3万人といわれる自殺者の数、異様な犯罪の多発、クレーマーや「モンスター・ペアレント」など、現代の病理を代表するようないくつもの現象が、実は同じような根っこをもっていることが分かる。そして、何よりも深刻なのは、そのしわ寄せが、何の罪もない子どもたちに行ってしまっていることだろう。格好良い生き様を見せられる大人がいなくなった、という指摘は、父親としてどきりとさせられる。自分はいったい、自分の子どもたちにどんな背中を見せているだろうか。
それから、こうやって本ばっかり読んで、パソコンに向かってこんなブログを書いているというのも、またひとつの偏りなのかもしれない。自然とふれあい、人間とかかわり、分をわきまえ、手間を惜しまず、心を込めて行動する。そして何より、楽しむこと。自分が楽しみ、その楽しみを回りに伝えられるような、「楽しい大人」になること。そのことの大切さを、私はこの本から教えられた。