自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【295冊目】杉原泰雄「地方自治の憲法論」

地方自治の憲法論―「充実した地方自治」を求めて

地方自治の憲法論―「充実した地方自治」を求めて

制度上、日本の地方自治は、日本国憲法によって保障されていることになっている。しかし、地方自治憲法の観点から論じた本というのは、実は案外少ない。本書はその中でも、両者の関係をかなり突っ込み、掘り下げて考察している本である。

著者がまず提示するのが「充実した地方自治」という概念である。つまり、本書では単に地方自治が推進されればよしとするのではなく、その内実が伴っているか、すなわち、憲法的な価値観(人権主義、民主主義など)に則った地方自治となっているかを問題とする。そのため、「効率化」や「合理化」を地方自治地方分権の理由とする昨今の議論には、著者は否定的である。そして、「充実した地方自治」実現のために必要とされる団体自治、住民自治それぞれの要素を、憲法を軸にしながら、地方自治の推進に向かいつつある世界的な風潮の中で論じていく。

以前、憲法を勉強したとき聞いた言葉に「国民(ナシオン)主権」「人民(プープル)主権」という概念があった。その頃はなんだかピンとこなかったのだが、今回、本書を読んで初めて理解した。ナシオンのほうの国民主権は、国民といういわばフィクショナルな存在を想定し、その存在が主権者であるとする。そのため、具体的な個人の存在はあまり問題にされない。そして、ナシオン主権は得てして中央集権政治と結びつく。それに対してプープル主義は個々の「人民」に着目して、そのひとりひとりを主権者とする。とすると、その向かう先は必然的に、国家以前に自分が帰属する身近な地方の政府の充実ということになり、つまりは地方自治の推進と結びつく。そして、著者によれば、日本国憲法における国民主権とは、実は国民(ナシオン)主権ではなく、人民(プープル)主義であるというのである。そのため、日本国憲法はもともと地方自治と親和的であると著者は主張し、そのことを具体的な個々の憲法上の規定等と照らし合わせつつ論じていく。

日本には現実に守られていない法律というものがたくさんあるが、なんともひどいことに、法律の頂点にたつ憲法が、実は遵守されているとはいえない。しかも憲法の場合、まったくタチの悪い話であるが、その最たる違反者が、憲法を遵守すべき義務を負い、憲法によってもっとも縛られるべき中央政府の官僚たちなのである。本書はそのことを痛烈に批判し、憲法とその背景にあるヨーロッパで培われてきた地方自治の思想に即した地方自治のあり方を強く主張している。いわゆる保守系の思想の持ち主にとっては、あまり耳に心地よい論調ではないだろう。しかし、現実に日本国憲法が最高法規として君臨している以上、わが国で地方自治がいかなる意味でもないがしろにされてはいけないのである。