【289冊目】駒崎弘樹「『社会を変える』を仕事にする」

- 作者: 駒崎弘樹
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2007/11/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ここまで心が動いた本はめずらしい。
著者は、病児保育のパイオニアである「NPO法人フローレンス」の代表である。本書はその立ち上げのいきさつを語った本なのであるが、読んでいて心がぶるぶると震えっぱなしであった。そして、いろんなことを考えさせられた。
そもそも自分はなんで役所で働いているんだろう。就職したときは、今よりもっとひたむきな気持ちをもっていたはずだった。人の役に立とうと本気で思っていた。もちろん、今もそう思っていないわけじゃない。しかし、いつのまにか「仕事」の枠でしかそれを考えられなくなっていた。役所だからしょうがない、というのを、役人である自分自身が言い訳にしている。そして、国が言うから、都が言うからと、できないことは人のせいにして、お仕着せのマニュアルと予算とルーチンワークで仕事をこなし、人様の役に立っている気でいる。
まずい、と思った。すでに自分は腐りかけているんじゃないかと、この本を読んでぞっとした。特に、次のくだりを読んだ時だ。ちょっと長いが、引用させてください。
「はっきり言って、迷惑なんですよね」
Z区保育課なんとか係係長のおじさんは、吐き捨てるように言った。
僕は何を言われたのか、すぐには理解できなかった。日本人に日本語で道を聞いたら違う国の言葉で返されてしまったような、不思議な感覚だった。
僕は本社オフィス(といってもマンションの一室)を構えている東京都Z区の役所に挨拶に行った。行政のやっていないことを肩代わりしている僕たちは、行政にとっても心強い存在だろう。話をすれば評価され、さらにいろいろな協力を申し出てくれるかもしれない。期待と希望に胸を膨らませ、必要以上に大きい、けれど節電のために全体的に薄暗い役所の門をくぐったのだ。だが、「迷惑」だと言われた。
「あの、どういう意味でしょうか」
僕は聞き返した。
「だからさ、迷惑なんだよね。あのさ、あなた方が新聞とかに出るじゃない? このまえもさ、ほら読売新聞だったっけ。載ってたよね。そうするとさ、『NPO法人フローレンス(Z区)』っていうふうに出るわけね。そうするとさ、問い合わせがうちにくるわけ。電話取るのは、僕なんだよね。仕事が増えるじゃない」
僕はまじまじと保育課ナントカ係係長の顔を眺めた。たぶん四十代。僕くらいの年で役所に入所し、これまでずっと勤めてきたのだろう。
このくだりを読んで寒気がした。この「係長」に、遠くない未来の自分がかぶって見えた。自分は役所を辞めたほうがいいんじゃないかと本気で思った。わが区役所にも、こういうことを言いそうな奴はいっぱいいる。思っているだけの奴なら、その10倍はいる。
青臭いかもしれない。でも、心底公務員という仕事が恥ずかしく思えた。どうすればいいのだろう。辞めて社会起業家になるべきか。むしろ踏みとどまって、役所の中では異端でも、開き直って正しいと信じることを言い、行動するべきか。
まだ今でも、書きながら迷っている。どう思いますか。NPOのみなさん。社会起業家のみなさん。そして志を失っていない、自治体職員のみなさん。