自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【290冊目】恩田陸「ライオンハート」

ライオンハート (新潮文庫)

ライオンハート (新潮文庫)

冒頭、エドワード・ネイサン教授の失踪から始まるためミステリ仕立てかと思いきや、実はさまざまな時代や場所を舞台に、「エドワード」と「エリザベス」の出会いを描く、作者曰く「SFメロドラマ」。

それぞれの章で時代も場所も異なり、エドワードもエリザベスもそれぞれ別の人間なのだが、一方が必ずもう一方を求めている。だが出会っているのはわずかな時間に過ぎず、また二人は別れてゆく。しかし、そもそもなぜ二人が惹かれているかが後半にならないとよく分からないため、「すれ違いの恋愛」に共感するというより、むしろ二人が何者で、なぜ惹かれあっているのかという不思議さがメイン。また、奇妙で運命的な関係にある二人の状況自体が非常に美しく描き出されており、非常に絵画的で詩的な印象の小説であった。

絵画と言えば、各章に絵画のタイトルがつけられ、章のトビラにその絵が掲げられているのも面白い。さらに、それぞれの章の内容と絵画のタイトルや内容が微妙にリンクしている。絵画的な印象があるのはそのせいかもしれない。あと、各章の冒頭が「プロムナード」と題されて(まるでムソルグスキー組曲展覧会の絵」だ)、主に1978年のエドワード・ネイサン教授の失踪事件を追っており、その後の本編で別の時代に話が飛ぶという構造もユニークである。