【203冊目】大木英夫「ピューリタン」
- 作者: 大木英夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1968/04
- メディア: 新書
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「ピューリタン」について記述しつつ、その外側で進行しつつあった中世から近代に向けての人々の意識面の大転換をスケッチした本である。中世ヨーロッパの社会は、「コルプス・クリスチアヌム」という、いわばキリスト教の教会が巨大な岩塊のごとくそびえており、個々の人々はその岩に彫り付けられた「浮彫」のようにこれと一体化していたという。それが近代化によって解体され、個人は独立して立つようになり、国家や教会と個人は対等の存在として対峙し、契約によって結ばれるようになったのである。この過程をプロデュースしたのが、聖書中心主義を唱え教会中心主義を打破しようとしたピューリタニズムであり、それ以前から進行しつつあったプロテスタンティズムであった。そして、ピューリタニズムの「非定着性」によって信徒は「エミグレ」となり、メイフラワー号に乗ってアメリカ大陸で新国家を形成し、あるいはイギリスで革命を起こして国王を処刑し、中世的社会から近代的市民社会への転換を先導していったのである。本書はその過程を描くことで、中世から近代への移行に際して、人々の意識が、ピューリタンという存在を軸にぐるりと転回したさまをも描いてみせている。まさしく、ピューリタンというキリスト教の一派を理解することなくして、近代ヨーロッパもアメリカも理解することはかなわないのである。