【100冊目】羽生善治「決断力」
- 作者: 羽生善治
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/07
- メディア: 新書
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小学生の時に親父に教えてもらったので、将棋のルールくらいは知っているが、どうやら「先を読む」という能力に先天的な欠陥があるらしく、友達とやってもまったく勝てなかった。なので、それ以来、将棋の世界は縁のないものと諦めている。
その世界のトップとなると私などにとってはまるっきり異星人のようなものであるが、実際、将棋のプロの世界というのは想像を絶するものであることが、本書を読むと分かる。静かな見かけからは想像もつかないが、あれは凄絶な勝負の世界であり、プロ棋士は、その勝負のなかで日々を送っている本物の勝負師なのだ。
著者によると、将棋の世界にも情報化の波は及んでおり、昔の対局でも最新の戦法でも、ただちにコンピュータから呼び出すことができるという。そのため、かつては新しい戦法を考案すれば一生使えるほどであったが、最近は一日で全国の棋士たちによって分析され、研究され尽くしてしまうらしい。
しかし、著者によれば、そういった事前の研究で十分な分析を経ても、対局の場で最後にどちらかを選ぶという段階になると、大事なのは「決断」であるという。ある程度から先は見えないところで、あえて「決める」。そのためには、その決断の結果を自ら引き受ける「責任」がセットになる。また、著者は「直観の7割は正しい」という。むろんその「直観」の裏づけとして膨大な経験と知識があるのだとは思うが、それにしても、将棋という理詰めの極致のようなゲームで、直観や決断といったアナログな部分が決定的な要素となるところが面白い。
著者はまだ30代の半ばであるが、常に勝負の世界に身を置いてきた経験の中から発する言葉は実に深く、重い。そして、それは決して将棋プロパーではなく、日常生活の場面、仕事の場面での指針ともなる内容を含んでいる。深さは広さに通じるのであろう。