hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【97冊目】藤原伊織「雪が降る」

雪が降る (講談社文庫)

雪が降る (講談社文庫)

本書には6つの短編が収められているが、どの小説の主人公も、決して能力が秀でているわけではない。どちらかといえば、地味で平凡な生活を送っている連中ばかりである。しかし、そんな彼らもかつては「男」であったのであり、その頃のことを、ふとした日常のきっかけから思い出す。そして、心の奥底で埃をかぶっていた「男」が目を覚ますのである。

本書に収められたどの短編も、男の「美学」や「ストイシズム」にあふれている。ハードボイルドという言葉を思い出す。こうして書くとずいぶん古臭い感じがするが、小説自体はまったくそういうことを感じさせない。本書の主人公たちは皆とても格好良い。それは、外観や能力による格好良さではなく、いわば姿勢の格好良さ、ぴんと伸びた背筋の格好良さなのだと思う。

彼らはそれぞれにほろ苦い過去を持つ。そして、いくつかの小説では、その過去にいやおうなく引き戻される。彼らはそれに勇敢に立ち向かう。その結果は決してハッピーエンドではない。しかし、彼らはそれを分かっていて立ち向かっているのである。損だからといって心を曲げて逃げ出すのではなく、誰も見ていない、賞賛などされないところで、損を自ら引き受けて男の筋を通す。そこが美学であり、格好良いのである。本書には、二枚目の俳優も拳銃もバーボンも出てこない(拳銃はちょっと出てくる)。しかし、これこそがハードボイルドなのだと思う。