自治体職員の読書ノート

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【2198冊目】星野道夫『グリズリー』

 

 

「彼はまず、グリズリーについて知るために数時間にわたって観察を続け、それからようやく撮影用の望遠レンズを取り出したのだった。こうしてグリズリーの母親と子どもの間に展開される感動的な情景、そして彼等の暮らしにおける印象的な場面をカメラに収めたのである」(p.3)

アラスカの大地を背景にひたすらグリズリー(ハイイログマ)を撮った、星野道夫の第一写真集。このコンパクトな写真集の完成に、著者は6年をかけたという。

その成果は、圧巻の一言。広大な雪原の真ん中にぽつりと浮かぶ、グリズリーの小さな黒い影。鮭を捕らえて食らう、獰猛であり、同時にとてつもなく美しい姿。文明の痕跡がまったくない、アラスカの自然と、その中のグリズリー。それだけで、すべてが完結している。自然には、いっさいの無駄がない。

クマは怖い? クマは可愛い? 私たちがすでに持っているクマに対するイメージを、この写真集は叶え、同時に裏切ってくる。人間がもっているイメージの安っぽさに対して、実際の彼らの存在感の、なんと圧倒的なことか。一枚として捨てるところのない、充実の処女写真集である。