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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2107冊目】富樫倫太郎『白頭の人』

 

白頭の人

白頭の人

 

 

病に侵された武将、という程度の認識しかなかったが、これほどの人物であったとは。

本書の主人公は、大谷吉継。秀吉に仕え、石田三成とは親友。病に苦しみながらも、戦国末期の激動を一挙に駆け抜け、関ケ原でその生涯を閉じた。「白頭」という号は、その白髪にあったという。

白髪だけではない。顔全体が病み崩れたため、白い頭巾を着けていた。関ケ原では、なんと目が見えなくなっていたという。にもかかわらず秀吉に重用され、その傍で活躍したのは、そのバランスの取れた力量と、実直な人柄のためだろう。親友の三成が才能を鼻にかけて傲慢なふるまいを見せるのとは対照的に、常に人の事を気にかけ、深い人徳で黒田官兵衛真田幸村ら錚々たる面々にも深い信頼を得た。おそらくその背景には、自らも病に苦しむがゆえの人としての深い温かさがあったのだろう。

病に関するエピソードでは、病に臥せった吉継を見舞った秀吉らと茶会を催したときのものが印象的。列席者が茶を回し飲みする際、吉継の鼻から鼻汁(膿汁)が垂れて湯呑に入り、場が静まり返った瞬間、秀吉がその湯呑を奪って飲み干し「平馬(吉継のこと)があまりにもうまそうに茶を飲むものだから、どれほどうまいのか自分で確かめたくなったのだ」と言い放った、というものだ。もっとも、別の本では確か、茶を飲み干したのは三成となっていたような気がするが……

吉継の病はハンセン病であったと言われている。戦後は長らく強制隔離されてきた病である。その偏見と差別の強さを思うとき、小説上でのこととはいえ、戦国時代の人々のおおらかさが心に沁みる。この人の作品は初めて読んだが、いやはや、良い小説であった。