読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2056冊目】ニール・ゲイマン『アナンシの血脈』

 

 

 

 
アナンシというネーミング、てっきり著者の造語かと思ったら、西アフリカの神様(というより、英雄)の名前らしい。もっとも本書に出てくるアナンシは、名前と「神様である」という以外はまったくの別物だ。

死んだ自分の父親が、実は「神」だったと知ったファット・チャーリー。クモに頼んで呼び寄せたきょうだいのスパイダーは、冴えないチャーリーとは正反対の人物で、しかも徐々にチャーリーの人生を乗っ取り始める。スパイダーを追い払おうと、チャーリーは「世界のはじまり」に赴くのだが……

コミカルでスピーディーな展開の中で、現実と幻想が絡み合い、とんでもない小説世界が目の前に立ち現れる。この異様な世界観をどう表現すればよいのだろうかと思っていたら、解説で大森望氏がぴったりの言い方をしてくれていた。曰く「ハルキ・ワールドから意味ありげな深刻さを抜いてオフビートな笑いを増量するとゲイマン・ワールドになる感じ?」そうそう、そうなのだ。この現実と非現実(事実の世界と真実の世界、というべきか)の混ざり具合は、どこか村上春樹を思わせる。ただ、村上春樹はその世界観を独特のメタファーで演出するが、ゲイマンはユーモアとアイロニーで演出するのである。

誰が味方で誰が敵か、一瞬たりとも気の抜けないストーリーテリングもお見事。それでいてしっかりと「物語」にもなっている(神話に通じるような、ホンモノの「物語」だ)。クライマックスはいろんな意味でご都合主義満載だが、それを読ませるのも筆力のうちであろう。映画化されてもおかしくないファンタジック・エンターテインメント。