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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1824冊目】吉田利宏・塩浜克也『法実務からみた行政法』

衆議院法制局で長年にわたり法実務に携わってこられた吉田氏と、数年での異動が当たり前の自治体職員としては異例の、11年に及ぶ自治体法務の現場経験をもつ塩浜氏による、リレー形式の法務論・地方自治論。タイトルどおり、まさしく「法実務」の現場に根差したハイクオリティの内容になっている。もっとも「行政法」といってもいわゆる教科書的な行政法解説(行政行為論とか不服申立制度とか)ではないのでご注意を。

タイトルはやや硬いが、どの章もユーモラスな「つかみ」から入り、シリアスな議論も「オチ」でさらりと流すというスタイルなので、たいへん読みやすい。文章のトーンも、どちらが書いているのかほとんど分からないほど揃っている。欲を言えば、もっとお互いの「キャラ」が立っていてもよかったかもしれない。

印象的だったのは、冒頭近くにある「炭鉱のカナリア」の比喩だ。「法運用の実践と葛藤の中、その問題点と可能性を明らかにするという点で、自治体法務の役割のひとつは、この「炭鉱のカナリア」と言って良いかもしれません」(p.10)というフレーズには、法務の現場を担う者の気概と矜持が(そしていささかの自虐が)詰まっている。そして、このことを国法との対比で言い表しているのが、ずっと後の第5章で出てくる次の言葉であろう。ちょっと長いが、本書の雰囲気がよく伝わるかと思うのであえて引用する。

「(国法は)「どうも、全国的にAとかBとかの問題があるようだ」。このようにいったん問題を抽象化しておいて、解決策のバリエーションをいくつか考え規定するのです。しかも、法的な整合性という美しさにくるんで少し鼻高々に…。「国産の牛フィレ肉の炭火焼にフンギポルチーニを添えてみました」「私どもが最善を尽くして作った解決策を召し上がれ」といった感じでしょうか?
 一方、自治体の場合には今、目前で困っている人がいるのですから、その問題の処方箋となる作り方をしなければなりません。もちろん条例の場合、一般化するようお化粧はしますが、そもそも実効性に対する姿勢が異ならざるを得ないのです。「昨日の冷奴の残り半分を味噌汁にして、庭に生えた三つ葉を浮かしてみました」でも、おいしければそれでもいいのです」(p.201)


この対比は見事である。ちなみにこのくだりで思いだしたのは、前に読んだ『深夜食堂』というマンガ。「できるものなら何でも作る」この店は、気取った料理などほとんど出さないが、お客さん一人ひとりに合わせたささやかな料理で、そのお客さんの心をほぐしたり、問題を解決したりする。自治体法務って、ひょっとしたらそういうものなのかもしれない。そう考えれば、なんだか誇りを感じるではないか。こじゃれた高級料理なんぞは霞が関にまかせておけばいいのである。

とはいえ、せっかくつくった料理でも、それが食中毒を起こすようなシロモノではいけない。つまり自治体法務も、最低限の法的整合性や実効性は備えていなければならないのだ。そのために必要なのがいわゆる立法技術であり、さらにはその基礎となる法に対する姿勢や基本的な考え方の理解なのだろう。

本書はいわば、その「基本」にあたるダシの取り方や野菜の切り方を、懇切丁寧に教えてくれる一冊なのである。法実務に携わるすべての自治体職員、特に法務部門に赴任したばかりの方にオススメしたい。

深夜食堂 1 (ビッグコミックススペシャル)