自治体職員の読書ノート

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【1706冊目】宇賀克也・水町雅子・梅田健史『自治体職員のための番号法解説』

完全対応 自治体職員のための番号法解説

完全対応 自治体職員のための番号法解説

自治体職員以外にとってはまったく興味の湧かない本であろうが、自治体職員にとってはきわめてニーズの高い本。この「読書ノート」が紹介しないで、いったい誰が紹介するのか。もっとも「番号法」自体については、実は国民全体に関わるトピックではあるのだが。

著者のうち宇賀氏は行政法学者として著名だが、番号法についても個人情報保護ワーキンググループの構成員、情報保護評価サブワーキンググループの座長を務め、制度設計にも関わっていた。水町氏、梅田氏はまさに内閣府で番号法の立案に関わった方々だ(ちなみに水町氏は弁護士でアプリケーションエンジニア、梅田氏は検事が「本業」である)。したがって本書は、制度設計者による制度解説ということになり、実務の上ではもっとも参照すべき一冊であるといえる。

ちなみに、先ほどから「番号法」と言っているのは、正式には「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」という。昨年5月24日に制定された、できたてほやほやの法律だ。その内容は、住民基本台帳に記載されたすべての住民に対して「個人番号」という特定の番号を割り振る、というもので、この番号を通じてデータマッチングを行うことで、税や社会保障、さらには災害などの場面における行政運営の効率化を図ることが、その目的とされている。

したがって、自治体にとってその影響範囲はきわめて広い。職員の給与支払いといった内部管理面も加えれば、ほとんど全部署が関わってくると言ってよいだろう。しかも2015年10月には個人番号の通知、2016年1月には本格稼働するのだから、決して猶予は長くない。「番号法」がどの自治体にとっても頭の痛い課題となっているゆえんである。

もちろん、本書を読んだからといってやることが減るワケではないが、少なくともやるべきことをリストアップし、漏れを少なくすることはできるだろう。特にこのような組織横断的な対応を求められる事業は、多くの自治体が苦手とするところだと思う。「モレ」や「ダブリ」が起きないよう、山のような「やるべきこと」をさばいていくには、本書のようなガイドブックはたいへんありがたい存在ではないだろうか。

ちなみに本書の第2篇第1章では、自治体がこの法律に関わる「4つの場面」を挙げている。全体を俯瞰するにはこの視点は使えそうだ。

第1が「個人番号利用事務実施者」で、まさに自らの事務において個人番号を利用する場合(社会保障や税がらみ)。第2が「情報照会者・情報提供者」で、こちらは個人情報の授受を行う立場だ。ここには情報提供ネットワークというネットワーク・システムが介在してくる。生活保護の申請にあたって前住地での地方税の納付状況や手当類の給付状況を確認するため照会を行う、あるいは年金事務所の照会を受けて住民票情報や所得情報を提供する、といったことが想定されるらしい。

第3は「個人番号関係事務実施者」で、こちらは給与支払者として(つまりは「一事業所」として)職員の個人番号を取り扱う。第4は「個人番号の指定・通知者」で、個人番号の付番・通知、個人番号カード(というものができるのである)の交付などの事務がこれにあたる。

さて、こうした番号によって個人情報を管理するにあたり、最大の課題は情報セキュリティだ。そのため番号法では、個人番号を含む個人情報を「特定個人情報」と呼び、いわば個人情報保護法制に上乗せする形で情報保護を図っている。

もっとも、これまでの経験則上で言えば、そうはいってもこれだけの規模の事業でパーフェクトに個人情報を守ることは難しいと思われるため、結局は情報を盗まれることを想定して個人番号自体からの情報アクセスを厳格化する、ということになってくるのだと思う。今までのこの手の制度は、セキュリティを絞り過ぎて使い勝手が著しく悪いものが多かった。今回は果してどうなるだろうか。

他にも本書は制度全般が丁寧に説明され、なんと個人情報保護条例の改正文例まで載っているというサービスぶりだ。まあ、それほど重要かつミスの許されない制度が導入される、ということなのであるが、果して人間のやることにそこまでの確実性を期待して良いものなのか、制度を運用する側がこういうことを言ってはいかんのであるが、実はいささか疑問に思わないでもない。

とはいえ、実は住民基本台帳データを業務で利用する者にとっては、全国ベースで「悉皆性」「唯一無二性」のある番号の付番というのは、ほとんど夢の制度である。この手の制度は、今まで何度となく提案されては頓挫してきたのだから(本書によれば、そのルーツは1970年代に遡るのだとか)、他人事のようで恐縮だが、今回こそはなんとかうまくいってほしいものである。