自治体職員の読書ノート

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【1362冊目】ジェームズ・ローレンス・パウエル『白亜紀に夜がくる』

白亜紀に夜がくる―恐竜の絶滅と現代地質学

白亜紀に夜がくる―恐竜の絶滅と現代地質学

そういえば、昔はいっぱしの恐竜少年だった。

恐竜展のようなイベントは行ける限り足を運び、恐竜図鑑はボロボロになるまで読み返した。当時覚えた恐竜の名前を今になって聞くと、なんともいえず懐かしい(もっとも、その後研究がものすごく進んでしまったため、その頃と違う名前で呼ばれるようになってしまった種類もけっこうある。そういえば今は「ブロントサウルス」なんて言わないらしいですねえ)。

だがなんといっても、子供心にミステリアスの極みだったのは、あれほど巨大で強烈でカッコいい恐竜が、なぜ一匹残らず絶滅してしまったのかというコトだった。当時の子供向け読み物にはなかなか納得のいく説明がなく、釈然としないまま興味が他のものに目移りして、すっかり忘れていたのだが、本書を読んで久しぶりに当時の思いがよみがえってきた。

とはいっても、本書には実は恐竜そのものはほとんど出てこない。出てくるのは地質学という、かなり「地味目」の学問分野の話ばかり……なのだが、なんとこれがめっぽう面白いのだ。なんといってもそこで展開されているのは、隕石衝突説をめぐる科学者たちのの丁々発止のドラマであり、わずかな証拠から論理を組み上げていくシャーロック・ホームズばりのスリリングな探偵ドラマなのだ。つまり本書は、恐竜絶滅という魅力的なテーマを軸に、科学というものの面白さをリアルに伝えてくれる一級のノンフィクションなのである。

「主人公」は物理学者ルイス・アルヴァレスとその息子である地質学者のウォルターだ。二人が立てた仮説は、白亜紀とその後に続く第三紀の間の地層に横たわる「KT境界」というエリアで、隕石が地球に衝突してイリジウムという物質を地球全体にばらまき、そのことが原因で恐竜が絶滅したというものだった。KT境界で検出されたイリジウムの量が他の層に比べて突出していたためだ。

しかし、旧態依然の地質学者たちはそのことを頑として認めない。だいたい、地面にしか目を向けない地質学者たちにとって、天から降ってきた隕石が恐竜絶滅に至るほどの大きな影響を与えるなんて、とんでもない暴論だった。本書のメインとなっているのは、この「パラダイム・シフト」をめぐるアルヴァレス親子と「その他大勢」の地質学者たちの一進一退の攻防にある。

学者たちの争いだからさぞかし理性的で冷静だろうと思ったらこれが大間違いで、まあなんともひどい罵詈雑言と誹謗中傷のオンパレード。しかしアルヴァレス親子は他の研究結果にも助けられ、最初はトンデモ説扱いされたにもかかわらず、徐々に失地を回復していく。そして今や、隕石衝突説といえば恐竜絶滅の押しも押されぬ最有力仮説である。パラダイム・シフトは起こったのだ。

本書はこのアルヴァレス仮説を中心に扱っているが、もちろん恐竜絶滅の原因にはもっといろんな説があり、本書の仮説が唯一絶対というワケではない。しかし本書の醍醐味は、そんな「結論」よりも、それを生みだすプロセスの面白さにある。だいたい、地質学という地味目にみえる学問の、なんとエキサイティングでスリリングなことか。そのことを感じられただけでも、私は本書を読んだ甲斐があった。