自治体職員の読書ノート

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【1146冊目】中野雅至『公務員の「壁」』

公務員の「壁」 ~官民合流で役所はここまで変わる! (新書y)

公務員の「壁」 ~官民合流で役所はここまで変わる! (新書y)

著者の本はこれまでも何冊か紹介したが、どの本も、安易な公務員バッシングに警鐘を鳴らしつつ、一方で公務員側の問題点もきちんと指摘する、そのバランスのよさが印象的だった。また、官民の流動性を高めることで、無理解による感情的なバッシングにブレーキをかけつつ、真に「適材適所」な社会を目指していくという方向性にも、大いにうなずかされるものがあった。

本書はその「官民交流」の考え方を「官民合流」にまで進めた一冊だ。著者によれば、今の日本は、公務員試験に受かって公務員になった者はたいてい一生公務員(天下りの問題はさておき)、新卒で民間企業に就職した者はそのまま終身雇用という「官民ダブルトラック労働市場」であある。本書の主張は、これを人材が相互に流動する「官民統一シングル労働市場」に変えていくべきであるというものだ。

もともと公務員が批判される大きな要因として、「公務員は別」という意識がある。つまり公務員がある種「特権階級化」してしまっているのだ(もちろん、悪い意味で)。公務員を叩く人が、自分の子供は公務員にしたがるという逆説(親が子供に「なってほしい職業」の2位は公務員)も、こう考えれば理解できる。

しかし、こうした現状を放置したままでは、どんなに公務員制度改革をやっても、どんなに賃金を切り下げたり生クビを切ったりしても、公務員バッシングがおさまることはない。むしろ、理知的な人ほど先にバッシングから「抜けていく」ため、どんどん「批判の低レベル化」が進むと思われる(すでにそうなりかかっているような気もする)。これは、社会全体にとっても公務員にとっても不幸なことである。

そこで著者が提唱するのが、ならば公務員と民間の「壁」そのものをとっぱらってしまえ、というコペルニクス的見解だ。もっとも、これは言うのは簡単だが実現するのは相当にたいへんな提案である。ちゃんとやろうと思うなら、おそらく日本の労働市場そのものを大変革しなければならない。

しかし、そうした実現性はともかくとして、本書の提言は、実は安易な公務員バッシングへのきわめてラディカルな反論になっているという点で、一種の思考実験としておもしろい。公務員の給料が高すぎるというのは、結局職種ごとの賃金の基準がないことの裏返しだし、公務員の「特権階級化」へのルサンチマンに対しては、「誰でも公務員になりうる」ことでそれを無力化できる。そしてなにより、問題が公務員という「職業」のではなく、「公務」「公共」というカテゴリーとなることで、ずっと建設的な議論が期待できるだろう。まあホントは、公務員批判というものは、感情論にとらわれずちゃんと考えを深めていけば、究極的にはそこまで到達できるはずなのだが・・・・・・。