自治体職員の読書ノート

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【905冊目】関根健夫『公務員のためのクレーム対応マニュアル』

公務員のためのクレーム対応マニュアル―こんなときどうする

公務員のためのクレーム対応マニュアル―こんなときどうする

「月刊ガバナンス」連載の記事をまとめたもの。「ガバナンス」を読むときには必ず目を通す連載のひとつだったが、単行本になったことを知って、改めて手に取った。一冊の本にまとまったものを読むと、クレーム対応の全体像がつかめるような感じで、雑誌連載とは別の意味で参考になる点が多い。

「マニュアル」と書かれているが、実は本書で何度も強調されているのが「同じクレームはない」ということ。そもそも、通常の「接遇」と「クレーム」の間に、はっきりした境目があるわけではない。対応の仕方ひとつで通常の対話が「クレーム」化することは珍しくないし、そもそもクレームとはお客様(住民など)からいただく貴重な「ご意見」であり、業務改善のための「宝の山」である、というのは官民問わず現場の常識だろう。したがって、窓口に立つ側としては、ちょっと批判がましいことを言われたからと言って、「すわクレームか」と身構えるよりも、普通の「接遇」の基本をきちんと守り、丁寧に応対することに、まずは徹するべきだろう。それに、相手の言い分を「クレーム」と決めつけてしまうと、こちらの対応が変に硬直化し、結果として余計にこじらせてしまうことが少なくない。

もっとも、この例にあてはまらないのが、本書にいう「ハードクレーム」だ。実は、「通常の接遇」と「クレーム」の間より、むしろこの「ハードクレーム」と「(通常の)クレーム」の違いを見極めることのほうが重要なのだ。「ハードクレーム」とは、要するに「悪質なクレーム」「常軌を逸したクレーム」のことで、それなりの経験を積んだ自治体職員なら、この種のクレームに遭遇したことも一度や二度(あるいはそれ以上)はあるだろう。最初から「ヤバイ」と感じるものから、気がついたらクレームの泥沼にはまり込んでしまう場合まで、「ハードクレーム」にもいろんなタイプがあるが、それに直面した時のいやあな感じは、同業者の皆さんならおそらく覚えがあることと思う。

著者はこの「ハードクレーム」への対応と通常のクレームへの対応を、はっきりと分けて書いている。もちろん表面上の応対の仕方をあからさまに変えるわけではないが、対応の方向性を「危機管理」に向けてギアチェンジするのだという。具体的には、記録を取る、複数の職員で話を聞く、関係機関と連携するなどの対応が必要となってくる。もちろん、そのためには「ハードクレーム」を嗅ぎ分ける感覚のようなものが必要となってくるであろうが……。

本書は、ハードクレーム、「普通の」クレームそれぞれの具体例を豊富に取り上げるとともに、それぞれの対処例を何通りかシミュレーションしており、中にはうならされるような対応例も少なくない。何より、本書に出てくるいろんな事例を「自分ならどう答えるだろう」と頭の中で繰り返しイメージしながら読むことが、実はホンモノのクレームへのメンタル・トレーニングになっているのだ。その内容は、すでに書いたとおり、クレームのみならず接遇全般に応用できるモノ。少なくとも、対応のための方法論があると知っているだけでも、相当落ち着いてクレームに相対することができるはずだ(落ち着くことはクレーム対応の大前提)。まるで精神安定剤だが、一般解の存在しないクレーム対応にあえて「マニュアル」が書かれた意義は、ひとえにその点にあるのではないだろうか。