読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【741冊目】赤瀬川原平『外骨という人がいた!』

読む・書く・話す

外骨という人がいた!  (ちくま文庫)

外骨という人がいた! (ちくま文庫)

宮武外骨、という名前をご存知だろうか。

明治から昭和前期にかけて活躍したジャーナリスト、出版人…なのだが、その活動内容が実はものすごい。生涯にいくつもの新聞や雑誌を創刊・廃刊し(創刊号限りで廃刊、というものも多い)、その発表内容を問われて何度も入獄し、それでも主張と風刺を徹底して貫きとおした筋金入りのジャーナリストである。

しかも、その内容は滑稽と頓知のカタマリであり、ユーモアと風刺の極致であった。だいたい、最初に不敬罪で有罪となったのが、明治天皇を骸骨で描き大日本憲法発布をパロディ化したためなのである。その後も不正を働いた警察署長や悪徳商法の主を長期間にわたって紙面でつるしあげたり、ユスリ行為を働く記者を批判するためわざわざ特注の「ユスリ」という極太活字を作ったり、さらには社説を真っ白で掲載したり、挿絵を一面ベタ塗りで載せたり、記号活字を組み合わせて絵にしてみたり(いわゆる「アスキーアート」をすでに先駆している)、まあほかにもとにかく考え付く限りの珍妙奇態爆笑必至の編集を行っている。明治の世にこのようなメディアが存在したこと自体が驚きであり、そのユーモア感覚、実験精神、風刺の水準は、最近の大小メディアがすべて束になってもかなわないのではなかろうか。

本書は、外骨の発表物に的を絞ってこれを紹介するというものなのだが、その編集構成にあたったのが赤瀬川原平、というところがまたぴったり。確かに、今の世で外骨に対抗しうるほどの滑稽と風刺を求めるなら、赤瀬川氏ほどの適任者はいないだろう。著者もその期待に応え、冒頭が外骨発見の驚き、中盤が講義形式のパロディで外骨作品をスライドで映しながらの進行、しかもラストでは自ら外骨に扮して(ちなみに表紙の画像も著者扮する外骨である)外骨への架空インタビューというのだから、まさに外骨に匹敵する滑稽編集。宮武外骨赤瀬川原平という、明治と平成それぞれの時代の、希代の表現者による夢の競演となっている。