自治体職員の読書ノート

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【378冊目】五木寛之「他力」

他力 (講談社文庫)

他力 (講談社文庫)

ひところ「歎異抄」をきっかけに、親鸞の思想に関する本を立て続けに読んでいた。本書もいわばその延長上にあり、親鸞や、その系譜を継ぐ蓮如の思想を語りつつ、現代を生きるためのヒントをちりばめるものとなっている。

特に重点が置かれているのが、「乱世」であった中世にあって法然親鸞の思想を伝えたr蓮如の言行である。なぜ蓮如か。著者は、現代という時代もまた乱世であるから、という。蓮如の思想は乱世の思想であり、世が乱れ、人の心の弱さにつけこむようなあやしげな新興宗教やエセ思想が跋扈する時代だからこそ、それに敢然と立ち向かった蓮如のような存在が必要とされているのだ、と。

蓮如のことはほとんど知らなかったが、本書を読んで俄然興味が湧いてきた。特に、蓮如の「白骨の御文章」について、「耳から聞かなければいけない文章」と言う指摘は面白い。とくにたくさんの人々と斉唱すると「蓮如の言葉の寝ていた活字が、いきなり立ち上がってくるような迫力をおびてくる」のだという。言い換えれば、蓮如の言葉はロジックとして理性に届くのではなく、肉声として感情に届くということらしい。もっとも、このことは蓮如に限らず、大切なことは人と人、師匠と弟子の「面授」で、面と向かって伝えられるのだ、ということを著者は繰り返し書いている。伝える、あるいは伝承するということについての、ひとつの真理であるように思う。

ほかにも「慈」と「悲」の違い、「プラス思考」になるためには、時にはどん底まで悩み絶望する極限の「マイナス思考」も必要だという指摘など、さらりと書いてあるが内容はかなり深い。ためになる、というのとはちょっと違うが、心に届く、心を動かされるようなフレーズが多い一冊であった。