自治体職員の読書ノート

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【377冊目】ユルゲン・ハーバーマス「公共性の構造転換(第2版)」

公共性の構造転換―市民社会の一カテゴリーについての探究

公共性の構造転換―市民社会の一カテゴリーについての探究

「市民的公共性」のあり方とその変遷を扱ったハーバーマスの名著である。1962年に刊行された初版に「1990年新版への序言」が付されている。なお、第2版とはいうものの、「序言」が付いただけで本体部分の内容は初版と変わっていない。しかし、実質的には「序言」において初版で述べられた内容は大きく転換している。30年間の後に第2版をわざわざ出版した理由もそこにある。

まず初版の内容であるが、冒頭で、民衆を観客として王侯の宮廷で繰り広げられる「代表的具現の公共性」という概念を提示した後、有産階級である「公衆」の登場、そして彼らの(サロンやコーヒー・ハウスなどにおける)自由闊達な討議によって成立する「市民的公共性」の登場と展開を描いていく。近代ヨーロッパの幕開けであり、一定の教養を有するいわゆる「ブルジョワ」による市民主義である。理性的な討論を通じて「公論」が形成されたこの時代こそ、ハーバーマスにとってひとつの理想形がかたちづくられた時代であった。

そして、本書の後半部分はここからの変化と解体の過程である。コーヒーハウスで激論を交わした「公衆」は、やがて流されやすく私益を追求するばかりの「大衆」に変わり、公衆から生まれて市民的公共性を支えたジャーナリズムは、商業主義化したマスメディアとなり、広告主の私的利益を代弁する存在に落ちぶれる。福祉国家現象とともに国家が人々の生活に深く介入するようになり、社会は大衆化するとともに寸断され、それまでの「市民的公共性」はその存立基盤を失って溶解していく。初版でハーバーマスが描いたのは、こうした公共性の変容過程であった。

第2版で付された「序言」は、いわばこうした動きに対して萌芽しつつある、「市民的公共性」的なるもの、「公衆」的なるものの揺り戻しの可能性を論じている。そこではやや散発的ながらさまざまな現代的公共性のトピックについて触れているが、もっとも印象的だったのは最後に呈示された「結社(アソシエーション)」を介した人々の結びつきであり、そこから生じてくる市民的公共性の可能性であった。いずれにせよ、いったんは大衆化による市民的公共性の喪失と変容に悲観的だったハーバーマスが、30年を経てそこにかすかな光明を見出しているのが感じられた。