自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【228冊目】京極夏彦「姑獲鳥の夏」

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

最初に読んだのは刊行間もない頃だから、もう10年以上前になるのかな? 今回、ひょんなことから再読した。

登場人物がものすごく個性的で面白い。古本屋「京極堂」主人で憑き物落しを行う中善寺秋彦をはじめ「犯人が見える」という反則級の能力をもつ探偵榎木津、いかにもそこらにいそうな木場刑事。それぞれが極端なまでの個性をもちつつ、うつ病気味の語り手「関口巽」を軸に絶妙な組み合わせをつくっている。次に世界観がすごい。まだ暗闇が残っていた頃の日本がしっかりと描かれている。まだ妖怪が跳梁していた時代である。だからこそ、「憑き物落し」という前代未聞の「解決シーン」が生きてくる。他にも妖怪関係を中心とした圧倒的な薀蓄、「20ヶ月もの間子供を身ごもる女」という奇怪極まりない謎等、まさに「京極ワールド」としかいいようのない世界の幕開けであった。

結局「謎」にはすべて理由があり、現実の世界ですべて解決されてしまうのだが(妖怪は「登場」することはない)、それでもこの世界のそこかしこには宵闇が未だ残り、なにより人々の脳裏にこそ妖怪は往来する・・・・・・その、現代より少し前の日本に確かにあったトワイライトゾーンを見事に小説内に描ききっているところが、われわれを京極ワールドから離れられなくしている魅力なのかもしれない(事実私は、本書を手に取ったおかげで「魍魎の匣」「凶骨の夢」とこのシリーズを読み続ける羽目に陥ってしまった)。