自治体職員の読書ノート

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【115冊目】松岡正剛「情報の歴史を読む」

情報の歴史を読む―世界情報文化史講義 (BOOKS IN FORM SPECIAL)

情報の歴史を読む―世界情報文化史講義 (BOOKS IN FORM SPECIAL)

「情報文化史」の観点から、古代から現代までの歴史を語りおろしたもの。千葉大学で3日間にわたって行われた講義がもとになっている。

「情報文化史」とは聞き慣れない言葉だが、情報のやり取りにかかわる一切の文化に関する歴史といえばよいのだろうか。したがってその対象には言語や文字、絵画、音楽などの表現のすべて、それを伝える技術(特に印刷技術)、そのほか人の行為のほとんどが含まれることになろう。しかし、その展開を支え、そのための技術や技法を確立した人々の名前すら、私はほとんど知らないままであった。

だいたい、以前習った世界史、日本史といえば主に統治に関わる側面、国家を単位とした政治史の一部がせいぜいである。文化史はその片手間程度で、主だった作品とその作者のカタログを覚える程度であった。しかし、実際には政治史すらそれを支える統治技術や国民としての連帯感は情報文化技術によって下支えされてきたのである。いわば、情報文化史は歴史に対するひとつの見方なのであるが、それを見ることで歴史を編み上げてきた一本一本の縦糸や横糸が鮮やかに浮かび上がってくる。

また、本書は「情報の歴史」という一種の年表をベースとしているのだが、この年表がまたすごい。まず、国家単位、地域単位ではないのである。日本史もヨーロッパ史もイスラム史も中国史もすべてまぜこぜで、その代わり、その時代の大きなテーマごとに縦の流れがいくつかつくられている。例えば本書にも掲載されている西暦1000年〜1050年のページにおけるテーマは「支配と交易」「キリスト教と仏教」「知の大翻訳・大編集」「様式と趣向」「物語の時代」。そして、「支配と交易」の中に、「カヌートのイングランド支配」「藤原道長」「西夏おこる」「セルジューク・トルコ建国」などが時系列順に並んでいる。並外れた博識と取捨選択能力、分類能力等の編集力がなければ作りえない年表である。

本書もこの年表をベースとしているだけあって、なんと宇宙開闢から現代に至るまで(近現代史はかなり駆け足だが)の情報文化史が、ヨーロッパ、イスラム、中国、日本などを舞台に縦横に語られる。特に面白いのは、特に交流もないのに、例えば東洋と西洋で同時期に同じような事件や技術革新、人々の意識の変化等が共時的に起こっていることである。まさにシンクロニシティであり、人間の文化というものの不思議さに打たれる思いである。また、「やきものを通じた日本文化史通観」もすばらしい。知的編集の至芸を見る思いである。