自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【68冊目】大塚久雄「共同体の基礎理論」

共同体の基礎理論 (岩波現代文庫―学術)

共同体の基礎理論 (岩波現代文庫―学術)

「共同体」の成立過程について、マルクスウェーバーの研究をベースに、「土地」の所有・占有関係を軸に論じた本。土地の私有化による階級の発生から、その一部を共有化したことによる共同体の発展に至る流れを、「アジア的共同体」「古典古代的共同体」「ゲルマン的共同体」のカテゴリーに分け、その展開について考察している。

われわれが現在生活している自治体も、行政単位として人為的に区切られた区画であると同時に、社会経済の発展の中で自然発生的に生じてきた「ムラ」などの共同体としての側面を持つ。特に、行政がややもすると見落としがちな、実態としての地域の生活単位、地域行事や地域の習俗などは、後者の意味での共同体の成立・発展過程に密接に関わるものが多い。近年の市町村合併で「行政単位」としての市町村のあり方ばかりが注目され、自然発生的に存在する社会のユニットが非常に希薄化しつつある中、その裏側にある「共同体」の存在について見直し、その意義を捉えなおす必要性は非常に高くなっているように思う。本書は、そういった目的に直接役立つとはいえないだろうが、そもそも共同体とは何であるか、という本質論にかかわるまさしく「基礎理論」として、認識しておくべき内容を含んでいる。共同体の成立過程についてやや単線的に捉えている面は否めないものの、議論の密度の高さ、内容の深さは驚くべきものがある。経済史学のエッセンスが詰まった名著である。