【2125冊目】ミシェル・ウエルベック『地図と領土』
『服従』がおもしろかったので、最高傑作と言われることの多い本書も読んでみた。
こちらもおもしろい。物語としての吸引力は『服従』以上かもしれない。売れないアーティストである主人公ジェドの成功譚を軸に、ロシアの美女オルガとのロマンス、父親との微妙な関係、そして「作家ウエルベック」まで登場し、重要な役割を果たす。なにしろこのウエルベック、物語の後半で突然惨殺されてしまうのだ。第3部で突然2人組の刑事が登場し、それまでジェドの視点だったのが刑事視点に切り替わるのもユニークである。
人名やガジェットなど、細部への「凝り」もふんだんに見られる(フランス人だったら、もっといろいろネタが見つかって楽しいのだろう)。表面上は成功譚でありながら、アーティストとして名を成したジェドが満たされているように思えず、芸術って何なのか、幸福を得るってどういうことなのかを考えさせられる。一筋縄の説明を許さない、重層的で、ウィットに満ちた小説。それにしても気になるのは、ジェドの「ミシュランの地図を写真に撮った作品」。実物があれば見てみたい。