自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1880冊目】末井昭『自殺』

 

自殺

自殺

 

 

自殺はダメ。命を大切に。それはたしかに正論だが、そう叫ぶことで、果たして自殺は減っただろうか。

著者はこう書いている。「必ずしも「自殺がダメ」とは思っていません。もちろん死ぬよりは、生きていた方が良いに決まってます。でもしょうがない場合もあると思います」(p.4) これを読んで、けしからん、と怒る人もいるかもしれない。だが、本当に自殺しようと考えている人、自殺で家族や友人や恋人を失った人に届くのは、案外こういうコトバなんじゃないか、と思うのである。

著者の母は自殺した。ダイナマイト心中だった。隣の家の一人息子と、家から近い山の中に入って爆死した。著者が7歳の頃だったという。そのことを、著者はこんなふうに書いている。

「…二人の体が混じり合い一緒になるために、ダイナマイトを何本を使ったのでしょうか。抱き合って、その間にダイナマイトを差し込み、導火線に火をつけたのでしょうか。火をつけた瞬間、二人は何を考えていたのでしょうか。ゴダールの『気狂いピエロ』のように、慌てて導火線の火を消そうとしなかったのでしょうか。爆発したあとも、意識はしばらく残るのでしょうか。爆発のドーンという音は、鉱山のドーンのように、のどかに山々に響いたのでしょうか」(p.34-35)

著者の文章は、いわゆる「うまい文章」というのとはちょっと違う。むしろ朴訥で、セキララで、しかもそこに、ふしぎな抒情のようなものが漂っている。上の文章など典型的だ。突き放しつつ温かく見守るような、複雑な感情が、その中に織り込まれているのを感じる。

ところで、私が著者を知ったのは西原理恵子の『まあじゃんほうろうき』からだった。当時は自ら立ち上げた白夜書房で『写真時代』『パチンコ必勝ガイド』などを刊行していたが、マンガでは麻雀を覚えたばかりのサル状態の時に高レートに引っ張り込まれる姿が描かれていた。本書でも、麻雀やパチンコなどのギャンブル、さらには先物取引などの話がたっぷり盛り込まれている。ちなみに著者は、主に不動産関係で、一時期は三億円もの借金を抱えていたことがあるという。そんな著者が言う「生きたいのでお金のことで死ぬのは、バカバカしいからやめた方がいい」という言葉には、妙な説得力がある。

ちなみにギャンブル関係では、「ギャンブルは疑似自殺のようなもの」というくだりに共感した。もちろん勝った時は嬉しいが、負けた時の意識がスーッと抜けていく感じ、放心した状態も結構気持ちいい、と著者は言う。このあたりは理解できる人とそうでない人にくっきり分かれそうなところかもしれないが、私は以前から「ギャンブルは負ける時にも快感がある」と思っていたので、まさに我が意を得たり、という感じだった。

他にも女性遍歴の話から先物取引の話、さらには樹海探索の話や「自殺関係者」へのインタビューなど、とにかく話題が幅広くて、掘り下げ方がうまい。そして何より、おちゃらけているようでいて、これほど真摯に「自殺」と向き合った本はない。だが世の中の大半の人は、交通事故死より多い一日の自殺者数を知りながら目をそむけ、自殺を「なかったこと」として埋もれさせてしまう。そのこと自体が、実は「自殺大国」日本の最大の課題なのかもしれない。